講義名 地域と文化B ≪□第一部≫
講義開講時期 後期
曜日・時限 金1
単位数 2

担当教員
氏名
安田 靜

学習目標(到達目標)       フランスのダンス─魅惑の古典バレエ,誘惑の現代作品
 イタリアで発祥し,フランスでコード(規範)化されたバレエ。実はダンスだけではなく,モード(ファッション),美術,音楽など様々な芸術分野がからみあって成立する総合芸術です。
 また,これはダンス?それとも演劇?と,議論を巻き起こしたピナ・バウシュや,イカかタコのような軟体動物もどきのフォーサイスのダンスなど,映像に触れていただくだけでもダンスの射程の広さがわかるはずです。
 バレエ=「白い鳥と妖精のイメージ」にはとどまらない,今日のフランスのバレエの姿を知り,モダン・アート,コンテンポラリー・アートにも触れてみましょう。
授業概要(教育目的)  バレエと聞くと高尚で難解,近づき難い芸術,と思われるかもしれません。しかし,フランス革命後,貴族にかわりブルジョワ階級がパトロンになった19世紀から20世紀の初頭まで,バレエあるいはバレリーナが占めてきた社会的地位の詳細を知ったら誰もがびっくりするはずです。
 この授業ではバレエをとりまく社会的背景の他,19世紀の『ジゼル』『白鳥の湖』など古典の魅力を探るとともに,絵画やモード(ファッション)と深い関係を切り結びながら発展した20世紀以降の現代作品のおもしろさについて,「モダン」とは何かを中心に考えていきます。
授業計画表
 
項目内容
第1回ガイダンス受講上の注意点の説明および授業内容のガイダンス
第2回フランス・バレエ小史「古典」を理解するためのいくつかのヒントを講義します。
第3回至高の悲恋物語『ジゼル』と当時の観客層について当時の観客層である裕福な紳士たちは,バレエダンサーの生活を支えるパトロンでもありました。ロマンチック・バレエの作品の魅力と同時に,当時のバレエダンサーの社会的地位がはらんでいた問題点などについてとりあげます。
第4回19世紀前半:古典バージョンの『ジゼル』を見る劇中のパントマイムについて説明しながら,『ジゼル』の映像を見ていきます。
バレエ団によって,あるいは時代によって若干バージョンが異なっていることにも注目して下さい。
第5回19世紀後半:クラシック(古典)バレエの『白鳥の湖』様々なバレエ団の様々なバージョンの『白鳥の湖』を比較します。マザコンの王子様からゲイの王子様まで,主人公の王子様の演出・解釈にはいろいろあります。単純な「おとぎ話」に基づく古典だからこそ,様々な演出,様々な解釈が可能になるのです。
第6回モダニズムの時代の絵画:モンドリアンの『コンポジション』からピカソまで20世紀のバレエについて理解するには,20世紀のアートの分野で「モダニズム」がどのように成立したのかについても知っておく必要があります。美術史の流れをざっとおさらいし,抽象絵画とよばれるものが生まれた経緯をたどります。
第7回モダニズムの時代のダンス(その1)デザイナーのシャネルが衣装を担当したり,画家のピカソが舞台装置を作ったりしたディアギレフのロシア・バレエ団と,ニジンスキーという神話的ダンサーについて,2回にわたってとりあげます。
 
第8回モダニズムの時代のダンス(その2)バレエ音楽というと,「伴奏」のように受け止められがちですが,今日でもコンサートで独立して演奏される機会も多いストラヴィンスキー作曲『春の祭典』(ニジンスキーの振付)は,20世紀のモダニズムを語る上で欠かすことができません。振付の点でも,音楽の上でも,当時大スキャンダルを巻き起こした名作を中心に分析します。
第9回ダンスにおけるモダンとは何かカニンガム,フォーサイスそれぞれのコンピュータとの出会いについてとりあげます。なお,フォーサイスについては,「モダン」というよりもバレエを「脱構築」した「ポストモダンなダンス」と呼ぶ方がふさわしいでしょう。
第10回古典の読み直しすでに授業で取り上げた古典版と比較しながら、マッツ・エックが読み直した現代版『ジゼル』を分析します。また,イギリス王室のダイアナ妃の悲劇として読み替えたオーストラリア・バレエ団の『白鳥の湖』や,全ての白鳥を男性が力強く演じるマシュー・ボーンの『白鳥の湖』など,様々な古典の読み直しを紹介します。
第11回シルヴィ・ギエムとウラジーミル・マラーホフクラシック(古典)バレエにおける身体とその表象の「革命」を起こした,といわれる2人のダンサーについてとりあげます。特にギエムの四肢の可動域の広さには,バレエに特に関心のないスポーツ選手でも圧倒されています。
第12回男性の裸体が「芸術」になる時「逆セクハラ」か,それともセクシュアリティの追求なのか。女性の裸体は見慣れていても,男性の裸体が芸術として,あるいはポルノグラフィとして,舞台や写真芸術の中で取り上げられていると,日本の多くの学生は戸惑うようです。まずは美的体験の一環として,男性の身体を鑑賞の対象として見ることに慣れていきましょう。
第13回ピナ・バウシュという衝撃これは演劇なのか,それともダンスなのか?という大きな議論を巻き起こしたピナのタンツ・テアターをとりあげます。物語のないスケッチの連続に,「古典」を見慣れた観客はとまどうようですが,むしろドイツの本拠地では,「吉本興業のお笑いを見に行く」ような気軽さで作品を楽しんでいることもお知らせしておきましょう。
第14回理解度の確認授業の内容に関する問いに答えていただく他,800字の論文レポートを書いていただきます。
第15回まとめまとめ
授業形式  第1回目の授業時に,授業の進め方についての注意事項を説明します。初回を欠席した学生の受講届けは受理できないので注意すること。
 毎回授業開始時に出席をとり,講義,ヴィデオ・DVD の視聴,関連文献読解等の後,授業内容に関する小レポート(400字の感想及びコメント)を日本語で記述して提出していただきます。
評価方法
定期試験 レポート 小テスト 講義態度
(出席)
その他 合計
60% 0% 0% 0% 40% 100%
評価の特記事項 400字の小レポート評価(5点満点x8回=40点)及び期末テスト(60点)の合計(100点満点)による総合評価。欠席が4回以上の場合は期末テストの受験資格はなく,単位を認定しません。4年生は特に注意。
テキスト 長野由紀編『200 キーワードで観るバレエの魅惑』立風書房,1900 円.(絶版:学部図書館指定図書コーナーで閲覧可)
鈴木晶編『バレエとダンスの歴史 欧米劇場舞踊史』平凡社,2940円.
参考文献 上記テキスト『バレエの魅惑』で安田が執筆を担当した項目のうち,19,38,82,108,141 及び194 ページの項目だけは,最低限講義開始までに読んでおくこと。
参考文献は随時紹介しますが,渡邊守章『演劇とは何か』講談社学術文庫,816 円.
小林康夫・船曳建夫編『知の技法』東京大学出版会,1545円.以上2点は必読。
オフィスアワー(授業相談) 本授業終了時にアポイントを取って下さい。もしくは金曜の12:20−12:30の間に,本館2階講師室で安田の所在(授業後教室に残っていることや会議で不在のことがあります)を確認の後,面接予定のアポイントを取り,指示された時間に本館2階講師室に来ること。
事前学習の内容など,学生へのメッセージ  制限時間内に考えをまとめ,的確に表現するには,新聞を毎日読み,小説,評論などに触れて,文章を書き慣れていることが不可欠です。ダンスに関する専門知識がなくても履修できますが,身体表現及び芸術一般に強い関心を持ち,展覧会,映画,演劇,コンサートなどに実際に足を運んだ経験(あるいはこれから足を運んでみたいという強い願望)のある学生を希望します。
 また,異文化コミュニケーションに興味があり,留学等に取り組む学生はぜひ履修して下さい。
 なお,授業初回までの事前のダンス経験や知識は不要ですが,単位修得には開講後,授業時に課題となった内容について,必ず次回授業までに消化しておくことが必要です。