講義名 社会政策論 ≪昼夜共通≫
講義開講時期 通年
曜日・時限 水6
単位数 4

担当教員
氏名
今井 拓

学習目標(到達目標) 1.社会政策が対処する問題について資本制社会の特徴や矛盾から説明することができる。
2.福祉資本主義の4つの類型(自由主義、保守主義、社会民主主義、企業主義)について「脱商品化」や「階層化」の概念を用いて説明することができる。
3.日本の社会政策の特徴について学び、新たに展開すべき社会政策の内容について自分の見解を述べることができる。
4.労働者階級の分裂と対立について、剰余価値の分配のあり方から説明し、分裂や対立を克服するにあたっての社会政策の役割について、自分の見解を述べることができる。
授業概要(教育目的) 本講では、現代の社会政策について、労働力の商品化と脱商品化の概念により、説明していく。労働力の商品化はKarl Marxによる経済学の概念であり、脱商品化はEsping-Andersenによる政治学的概念である。両方の概念を用いることで今日の社会政策や福祉国家について総合的に理解していくことが可能になる。また、これらの理解に密接不可分な社会ファンドの概念を用いて、賃金や福祉国家について分析していく。さらに、社会政策を展開していく社会的な力である労働運動や市民運動についても、考察していく。
授業計画表
 
項目内容
第1回社会政策とは何か:市場メカニズムを侵害し、歪めるものか、補足し、正すものか? 社会政策を捉える代表的なふたつの立場を説明し、本講の立場や問題意識を明らかにする。
第2回資本主義社会とは何か:市民の自由が尊重される社会か、侵害される社会か? 資本制社会についての代表的なふたつの立場から説明を行い、それぞれにコメントする。この問題の検討からは今日の社会は資本主義社会なのか?という新たな問題が提起されることになる。
第3回福祉国家とは何か:ポスト資本主義か、修正資本主義か? 福祉国家は、工場の労資対立に代表される資本主義社会を終焉させ、労資の階級対立の無い社会を生み出したのか?あるいはまた、福祉国家は、資本主義の相対的安定期に現れた一時的な現象であり、グローバル経済の発展の中で、後退・崩壊に向かっているのだろうか?
第4回Esping-Andersen『福祉資本主義の3つの世界』:Esping-Andersenは、先進資本主義国を自由主義、保守主義、社会民主主義を3つの類型に分けた自由主義は市場を、保守主義は家族を、社会民主主義は国家を重視すると言われているが、本来は、脱階層化と脱商品化とういふたつの基準に照らして、社会政策がこれを促進しているのか、あるいは逆方向を向いているのか、により区分している。
第5回日本は福祉社会と言えるのか?:日本の社会政策はどこを向いているのか? 社会保障給付費の国民所得比が非常に小さいあり方を日本型福祉社会と持ち上げる議論がある。しかし、脱階層化のためにも、脱商品化のためにも、積極的な政策をとることなく家族の機能や企業の機能に頼ることで、これらに福祉国家の機能を代替させてきたと言える。
第6回まとめと小テスト
5回までの要点のまとめ
第7回ブラック企業は何故蔓延るのか? 市場メカニズムが働けば、労働者はまともな企業に移動するので、ブラック企業は淘汰されるはずだ。それなら社会政策の必要も無い。なぜ、ブラック企業が社会問題になる程蔓延ってしまったのだろうか?
第8回サービス残業をなくすには、どうしたらよいか? 36協定(時間外労働時間についての労使協定)の労働時間を実態に合わせて延長すれば、未払い賃金は発生しない。しかし、これでは、社会政策により、ブラック企業の拡大を奨励しているようなものではないか?
第9回最低賃金をひきあげるべきか?
最低賃金の引き上げには、強力な反対論がある。最低賃金を引き上げると非正規雇用労働者の労働コストを高めるため、非正規労働者の雇用を減少させ、かえって非正規労働者のためにならない、というのである。この議論は正しいか、間違っているか?
第10回有期雇用は是か非か? 改正労働契約法は悪法か?

2013年4月1日に施行された改正労働契約法は、有期契約労働者に無期契約転換権を付与した。ところが、改正法施行後、5年雇い止めが横行する事態となった。何故、このようなことになったのか?
第11回まとめと小テスト 10回までの要点
第12回年功賃金は是か非か
三種の神器ともてはやされた日本的経営の柱の是非を問う。年功賃金は、競争心を削ぐ? 労働者のやる気を鼓舞する?
第13回終身雇用は是か非か
終身雇用は、労働者の緊張感を削ぐ? 労働者の忠誠心を抱かせる?
第14回企業別組合は是か非か 企業別組合は、企業の生産性上昇に役にたっており、日本の競争力の強さを支えている? 企業別組合は、時間外労働を容認し、引き換えに利潤の分け前を受けとることにより、企業外の労働者全体と敵対しているのではないか?
第15回中間まとめ
まとめ 14回までの要点と課題についての論述
第16回生活賃金の擁護論と反対論 マルクス派とフェミニストの対立
第17回価格賃金の擁護論と反対論
生活賃金か、価格賃金か?
第18回差別賃金の反対論と擁護論
何が差別なのか?差別賃金はいけないのか?
第19回労働者階級の分裂から対立へ

日本の労働者階級は、ライフスタイルの異なる諸階層に分裂してきたが、今日においては、剰余価値の分け前を受け取る特権的労働者と生活を維持することも困難なワーキングプア―が生じている。両者の階級的利害は対立しているのではないか?
第20回まとめと小テスト 19回までの要点
第21回医療保険・介護保険をどう改革すべきか
市民の医療・介護のニードを保障する方法には、大きく一般税源で賄う方法と社会保険で賄う方法がある。それぞれどんな特徴があるのだろうか?どちらが正しい方法なのだろうか?
第22回年金保険・生活保護制度をどう改革すべきか 年金制度が不十分であれば、生活保護制度は肥大化する。生活保護制度が肥大化すれば、年金制度から脱退しようとするものも拡大し、両制度が崩壊しかねない。だとすれば、年金制度を抜本的に充実するしか、事態を打開する方法は無いのではないか?
第23回社会ファンドの拡充か縮減か? 社会保障制度を拡充するには、社会ファンドを増やさなければならない。しかし、社会ファンドを拡充するためには、利潤や賃金に賦課する必要がある。そこから、小さな福祉国家の要求が発生してくる。社会ファンドは拡充すべきなのだろうか、縮減すべきなのか?
第24回まとめと小テスト 23回までの要点
第25回企業別組合か、産別労働運動か? 労働組合は、労働者の利益を守る組織と言われているが、企業別組合と産別・職種別・地域別労働組合は、根本的に性格が異なる。労働者の利益を守る労働運動はどちらだろうか?
第26回有期雇用労働者の一律雇い止め問題と産別・職種別労働組合運動 改正労働契約法の施行を契機とする有期雇用労働者の一律雇い止めの動きに抵抗しているのは、産別職種別地域別の労働組合運動である。一律雇い止めをやめさせるどのような方法があるのだろうか?
第27回アメリカ労働運動の転換と社会運動ユニオニズム:ビジネスユニオニズムか社会運動ユニオニズムか? アメリカの労働組合は、産別組合であるが、1990年代以降、歴史的な転換を遂げた。それ以前の組合員の利益だけを守り、組合員の利益拡大により、組織を維持する、ビジネスユニオニズムから、社会政策の確立や充実を重視し、市民の権利の実現をめざす社会運動ユニオニズムへ向けて変化したのである。
第28回日本の労働運動の復興と社会運動ユニオニズム 社会運動ユニオニズムの展開により、日本の労働運動の復興が可能なのではないか?
第29回福祉国家確立の展望:社会政策の今後の展開方向について日本社会の課題は、企業社会からの脱出である。そのためには、脱商品化の社会政策を展開するべきではないか? また、脱階層化の社会政策を展開するべきではないか?
第30回まとめ
授業形式 講義形式でおこないますが、受講生との双方向のやり取りを重視します。リアクションペーパーによる応答は例年通り行いますが、今年から、講義の冒頭で、毎回のテーマに即して、対立する見解のどちらの立場に立つか、受講生に挙手で選択してもらい、なぜそう考えるのか、発言をを求めていく予定です。
評価方法
定期試験 レポート 小テスト 講義態度
(出席)
その他 合計
60% 15% 15% 10% 0% 100%
テキスト いわゆる教科書は使用しません。毎回レジュメと資料を配布します






参考文献 『よくわかる社会政策』ミネルヴァ書房、講義中に言及します。      Esping-Andersen,1990,The Three Worlds of Welfare Capitalism, Polity Press,              
Figart, Mutari, and Power, 2002, Living Wages, Equal Wages, Routledge
事前学習の内容など,学生へのメッセージ 本講では、各講義のテーマについて対立するふたつの見解を取り上げ、受講生のみなさんがどちらを良しとするのか、問うことから始めます。そして、なぜそのように考えられるのか、対立する考えの根拠を検討することで、今日の資本制社会が抱えている構造的問題を捉え、そこから社会政策を検討していくことを目指します。各講のテーマについて事前に調べ、自分の考えを持って講義に参加することを期待します。本講が白熱教室となるかどうかはみなさんの意欲にかかっています。積極的な受講を期待します。