講義名 哲学概論 ≪□第一部≫
講義開講時期 通年
曜日・時限 水1
単位数 4

担当教員
氏名
伊佐敷 隆弘

学習目標(到達目標)  この科目は教員免許のための科目である。哲学・思想・宗教の分野について中学生や高校生に教えるために必要な基礎的知識を習得することが学習目標である。
 具体的には,
(1)西洋の主な哲学者は何を問題にして,どんな答えを提案したのか,
(2)キリスト教・仏教・儒教はどのような教えの宗教なのか,
(3)福沢諭吉・夏目漱石・柳田国男はそれぞれどのような主張をしたのか,
これら(1)(2)(3)について明快に説明できるようになることが受講者の到達すべき目標である。
授業概要(教育目的)  哲学や思想を学ぶ上で最も重要なことは「自ら考えること」である。自ら考えることなしに,授業内容を丸暗記しても哲学や思想を理解することはできない。この授業では,各哲学者や思想家がなぜそのような(一見すると荒唐無稽な)主張をおこなったのか,その動機や背景を説明する。この説明を踏まえて,受講者も彼らが取り組んだ問題について自分自身で考えてみてほしい。そうすれば,荒唐無稽に思われた彼らの主張にもそれなりの根拠があることが分かるだろう。「哲学や思想は自ら考えて初めて理解できるのだ」ということを常に忘れず授業を受けてほしい。
授業計画表
 
項目内容
第1回イントロダクション授業内容の概略を述べる。また,成績を取得するうえでの注意事項を述べる。
【準備学習】シラバスをよく読んでおくこと。
第2回哲学の発生:「哲学」という語の由来とソクラテスの問答法「哲学」という語は明治時代に西周が作った翻訳語である。哲学はソクラテス(前5~4世紀)から始まった。ソクラテスは相対主義への反発と「ソクラテスほど賢い者はいない」という神託の謎を解くために問答を始めた。
【準備学習】貫成人『図説・標準 哲学史』pp.16-19「ソクラテス」を読んでおくこと。
第3回古代ギリシア哲学の展開(1):プラトンのイデア論ソクラテスの問いへの弟子プラトン(前5~4世紀)による答えがイデア論である。
【準備学習】貫成人『図説・標準 哲学史』pp.20-23「プラトン」を読んでおくこと。
第4回古代ギリシア哲学の展開(2):プラトンの哲人王プラトンは祖国ギリシアの衰退を見て,理想の政治について考えた。「魂における調和」と類比的に「国家における階級間の調和」を提案した。
【準備学習】前回の授業で自分が取ったノートを読み返しておくこと。また,貫成人『図説・標準 哲学史』pp.20-23「プラトン」を再読しておくこと。
第5回古代ギリシア哲学の展開(3):アリストテレスのプラトン・ソクラテス批判プラトンの弟子アリストテレス(前4世紀)はプラトンのイデア論を批判し,さらに,ソクラテスの問いそのものも批判した。
【準備学習】貫成人『図説・標準 哲学史』pp.24-29「アリストテレス」を読んでおくこと。
第6回古代ギリシア哲学の展開(4):アリストテレスの「中庸」説アリストテレスがプラトンのイデア論の代わりに提案したのは,現実的かつ楽観的な倫理学であった。
【準備学習】前回のノートを読み返しておくこと。また,貫成人『図説・標準 哲学史』pp.24-29「アリストテレス」を再読しておくこと。
第7回古代ギリシア哲学のまとめ
ソクラテス→プラトン→アリストテレスという古代ギリシア哲学の流れをまとめる。
【準備学習】第2回~第6回のノートとテキストの該当箇所を読み返しておくこと。
第8回ユダヤ教の歴史:バビロン捕囚と一神教の誕生キリスト教はユダヤ教の中から生まれた。キリスト教やユダヤ教のような一神教はどうやって生まれたのか。「一神礼拝」と「一神教」の違いがポイントである。
【準備学習】プリント「哲学概論資料」の「ユダヤ教」を読んでおくこと。
第9回キリスト教の誕生:イエスのユダヤ教改革・パウロによる非ユダヤ化
イエス(1世紀)はユダヤ教の改革者として出発した。イエスの死後,パウロ(1世紀)は原始キリスト教を非ユダヤ化し,今日のキリスト教の基礎を作った。
【準備学習】プリント「哲学概論資料」の「キリスト教」を読んでおくこと。
第10回キリスト教神学の発生:アウグスティヌスの「無」と「永遠」アウグスティヌス(4~5世紀)は人類の思想に「無からの創造」と「すべてが同時であるという意味での永遠」という新しい考え方を導入した。これによって,彼は神と世界を峻別した。
【準備学習】貫成人『図説・標準 哲学史』pp.38-39「アウグスティヌス」を読んでおくこと。
第11回キリスト教神学の展開:トマス・アクィナスにおける「理性と信仰の調和」
トマス・アクィナス(13世紀)はキリスト教の教えのうち,理性によって理解できる部分(キリスト教徒でなくても理解できる部分)と信仰によってのみ理解できる部分とを区別した。
【準備学習】貫成人『図説・標準 哲学史』pp.44-47「トマス・アクィナス」を読んでおくこと。
第12回宗教改革:カルヴァンと資本主義
カルヴァン(16世紀)は「神は全知であり,誰が天国へ行き,誰が地獄へ行くかは,既に決まっている」と主張した。(予定説)。「この予定説が初期資本主義を支えていた」と社会学者ウェーバー(19~20世紀)は主張した。
【準備学習】プリント「哲学概論資料」の「宗教改革と資本主義」を読んでおくこと。
第13回キリスト教の歴史のまとめユダヤ教→キリスト教(カトリック→宗教改革)というキリスト教の歴史の流れをまとめる。
【準備学習】第8回~第12回の授業のノート・テキストの該当箇所・配布プリントを読み返しておくこと。
第14回西洋における自然観の変遷西洋における自然観は,古代→中世→近代で,どのように変化したか。自然と人間と神の3者の位置関係の変化がポイントである。
【準備学習】プリント「哲学概論資料」の「西洋における自然観の変遷」を読んでおくこと。
第15回中間のまとめまとめ
第16回西洋哲学史の概略古代ギリシア哲学・中世スコラ哲学・近代哲学という西洋哲学の流れをまとめる。
【準備学習】前期に自分で取ったノート・テキストの該当箇所・配布プリントを読み返しておくこと。
第17回近代哲学の発生(1):デカルトの「我思う故に我あり」デカルト(16~17世紀)は理性だけを頼りに絶対確実な知識を求めた。そして,デカルト哲学の根本原理として,「考える私」という存在を見出した。
【準備学習】貫成人『図説・標準 哲学史』pp.64-71「デカルト」およびプリント「哲学概論資料」の「デカルトの言葉」を読んでおくこと。
第18回近代哲学の発生(2):デカルトの「物心二元論」デカルトは「世界は心(その本質は思惟)と物質(その本質は延長)という2種類の実体からできている」と主張した。
【準備学習】前回のノートを読み返しておくこと。また,貫成人『図説・標準 哲学史』pp.64-71「デカルト」およびプリント「哲学概論資料」の「デカルトの言葉」をもう一度読んでおくこと。
第19回近代哲学の展開(1):パスカルの「賭けとしての信仰」数学者であり宗教家でもあったパスカル(17世紀)は「神が存在することは不可解であり,神が存在しないことも不可解である」と言った。
【準備学習】貫成人『図説・標準 哲学史』pp.72-73「パスカル」およびプリント「哲学概論資料」の「パスカルの言葉」を読んでおくこと。
第20回近代哲学の展開(2):ホッブズとロックの社会契約説社会契約説は近代憲法の原理になった考え方である。ホッブズ(16~17世紀)の社会契約説は性悪説的であり,他方,ロック(17~18世紀)の社会契約説は性善説的である。
【準備学習】貫成人『図説・標準 哲学史』pp.78-81「ロック」およびプリント「哲学概論資料」の「ホッブズとロックの社会契約説」を読んでおくこと。
第21回近代哲学の展開(3):ベンサムとミルの功利主義功利主義とは,「快を求め苦を避ける」という人間の性質を倫理と政治の基礎にする考え方である。ベンサム(18~19世紀)が提起し,J.S.ミル(19世紀)が修正した。
【準備学習】プリント「哲学概論資料」の「ベンサムとミルの功利主義」を読んでおくこと。
第22回近代哲学のまとめ近代哲学の流れをまとめる。
【準備学習】第16回~第21回の授業のノート・テキストの該当箇所・配布プリントを読み返しておくこと。
第23回仏教の発生:輪廻と往生仏教発生の地であるインドには輪廻思想があった。輪廻は苦しみであり,輪廻からの脱却には,「自力による悟り」か「仏の慈悲にすがること」が必要であった。阿弥陀仏に頼って極楽浄土に生まれ変わることが「往生」である。
【準備学習】プリント「哲学概論資料」の「仏教(1):輪廻と往生」を読んでおくこと。
第24回日本仏教の展開:親鸞の悪人正機説親鸞(12~13世紀)は「善人でさえ極楽往生できるのだから,悪人ならなおさら往生できる」と主張した。その真意は何か。
【準備学習】プリント「哲学概論資料」の「仏教(2):法然と親鸞」を読んでおくこと。
第25回儒教の発生:「積善の家」と孝儒教の古い文書である「易経」には「積善の家には余慶あり。積不善の家には余殃あり(代々善を積んだ家にはあふれるほどの幸福が生じ,代々悪を積んだ家にはあふれるほどの不幸が生じる)」と書かれている。これはどのような考え方なのか。
【準備学習】プリント「哲学概論資料」の「儒教(1):積善の家」を読んでおくこと。
第26回儒教の展開:孟子の性善説と荀子の性悪説孟子(前4~3世紀)は「人間の本来の性質は善である」と主張した。一方,荀子(前3世紀)は「人間の本来の性質は悪であって,人間の善である状態は後天的な人為によるものである」と主張した。
【準備学習】プリント「哲学概論資料」の「儒教(2):孟子の性善説と荀子の性悪説」を読んでおくこと。
第27回明治時代の日本思想:福沢諭吉「学問のすすめ」・夏目漱石「現代日本の開化」福沢諭吉(19~20世紀)は「平等に生まれたはずの人間に差があるのは学問の有無による」,「一身独立して一国独立す(個人が独立して初めて国家も独立する)」と主張した。夏目漱石(19~20世紀)は「現代日本の文明開化は皮相うわすべりの文明開化だ」と批判した。
【準備学習】プリント「哲学概論資料」の「福沢諭吉:学問のすすめ」と「夏目漱石:現代日本の開化」を読んでおくこと。
第28回日本民俗学の誕生:柳田国男「魂のゆくえ」日本民俗学の創始者である柳田国男(19~20世紀)は,「お盆という習慣には,『死者の魂は極楽や地獄のような遠い所へは行かず,すぐそばの山の頂上に留まっていつも子孫を見守っている』という(仏教以前の古い)死生観が現れている」と主張した。
【準備学習】プリント「哲学概論資料」の「柳田国男:魂のゆくえ」を読んでおくこと。
第29回日本思想のまとめ古代から近代までの日本思想の流れをまとめる。
【準備学習】第23回~第28回の授業のノートと配布プリントを読み返しておくこと。
第30回まとめ全体のまとめ
授業形式 (1)講義形式で行う。しかし,受講者からの質問や感想を紹介したり,受講者に対して質問するなどして,なるべく双方向の授業にする。
(2)小テストの答案は返却するので,間違えた箇所をしっかり復習すること。
(3)授業中の私語・携帯電話の使用・遅刻・早退は厳禁である。(私語は教室内の他の学生の授業を受ける権利を侵害する行為なので厳禁。万一,遅刻した場合は,他の学生の迷惑にならないように入り口近くの席に静かに座ること。)
評価方法
定期試験 レポート 小テスト 講義態度
(出席)
その他 合計
50% 0% 30% 20% 0% 100%
評価の特記事項 前期に小テスト1回(15%)をおこない,後期に小テスト1回(15%)と学年末試験(50%)をおこなう。毎回出席を取る。
テキスト (1)貫成人『図説・標準 哲学史』新書館,1620円.
(2)プリント「哲学概論資料」をEcolinkからダウンロードし,印刷して持参すること。(授業中の携帯の使用は厳禁。)
参考文献 テキスト(『図説・標準 哲学史』)の各項目の最後に【参考文献】があげられているので,参照すること。
オフィスアワー(授業相談) 授業の前か後にアポイントメントを取り,指定された時間帯に本館2階講師室に来ること。
事前学習の内容など,学生へのメッセージ  テキストやプリントは予習の際にはよく理解できなくて当然である。授業をしっかり聞いた後に再度テキストやプリントを読んでみよう。1回目より理解度が上がっているはずである。それでも完全には理解できないだろうが,あきらめずに,疑問点をメモして,授業をさらに聞き続けよう。そして,自分のノートを何度も読み返そう。少しずつ少しずつ理解度が上がっていくはずである。
 また,教員に積極的に質問することも理解度を上げるために非常に有効である。
 すぐに理解できなくてもあきらめないこと。そして,丸暗記に走らないこと。根気よく取り組んでほしい。必ず理解できるようになる。