講義名 文化人類学 ≪□第一部≫
講義開講時期 通年
曜日・時限 火5
単位数 4

担当教員
氏名
清水 純

学習目標(到達目標) 目標
1.文化人類学の概要を学習することにより、文化人類学の基本的な見方や考え方を理解できるようになる。

2.自分自身を取り巻く世界を見渡すときに、異なる価値観に対して柔軟に対応できるような視野の広さを持つことができるようになる。
授業概要(教育目的) 「人間とは何か」という根源的な問いに基づき、文化人類学が明らかにしてきた人類文化・社会に関する学問的知見をテーマごとに概説する。また、文化人類学者の現地報告を講読したり、民族文化の映像記録を見たりする機会を多く提供することを心掛けたい。資料講読や映像鑑賞という学習方法は、異文化を間接的ながら具体的に体験するものであり、これにより自他を比較する視点を獲得することが可能になる。授業時間の最後にはまとめを書いて提出してもらうこととし、自分の考えや感想を文章化する習慣をつける。最終授業では全レポートを返却し、それをもとに自分なりの総括を書く作業を通じて習得した学習内容が鮮明に意識できるようにしたい。
授業計画表
 
項目内容
第1回授業の進め方のガイダンス
文化人類学とはどのような学問か
文化人類学の授業の進め方のガイダンス。
課題図書の購読と確認テストの実施についての説明。
読書案内。
文化人類学とはどのような学問かについて概略を把握する。
第2回文化の定義文化人類学の成立と発展について理解する。また、文化人類学を学ぶ上で最も基本となる文化の定義に焦点を当て、文化人類学が文化を扱う上でどのような立場をとってきたかについて学習する。
第3回文化とは何か文化とは何かを考えるにあたり、人と類人猿の相違を比較することは重要である。ボノボに関する映像記録を参考にしながら、人間の言語が持つ役割について考える。
第4回言語と文化言語が作り出す世界は、社会的な身分の相違を反映する。文化における言語の役割を考えるためにポーンペイ島の挨拶言葉と身分制度についての事例を取り上げる。
第5回文化の意味の世界同じひとつの文化要素であっても、それを取り入れた文化ごとに、それに対する意味の与え方が異なることを、アジアにおけるイレズミ習俗に関する通文化的研究を通じて学習する。
第6回家族と親族①文化人類学で用いられる系図の描き方を学習する。
第7回家族と親族②家族の多様性について考えるため、北タイのヤオ族の養子慣行の事例を取り上げる。資料の講読を通じて、私たち日本人が考える家族と血縁に関する観念との相違を理解する材料とする。
第8回家族と親族③家族観念の多様性について考える材料として、韓国の事例について検討する。韓国の家族における男子の価値を通じて、韓国文化の中に、日本人ともヤオ族とも異なる強い父系血縁の観念が存在する事を理解する。
第9回家族と親族④韓国の家族・親族の続きとして、父系血縁観念によって結ばれた親族が構成する宗親会の役割について、学習し、韓国社会の現代化と伝統的観念の継承に関する問題点を理解する。
第10回南洋の仮面来訪神日本の南西諸島に見られる様々な仮面文化の姿を紹介し、さらにミクロネシア・メラネシア・ニューギニアの仮面文化の比較から、日本文化の中でも南海に連なる文化潮流について考える。
第11回鳥居龍蔵と日本の人類学日本の人類学に大きな貢献をし、また世界的にも知られた鳥居龍蔵とその業績及び冒険的な調査行について学習する。
第12回課題図書確認テスト第一回課題図書の上巻の内容に関する確認テストを行う。各自読書ノートを作成し、それを参照しながらのテストとする。
第13回環境の利用人間はどのように環境についての知識を蓄積しながら、工夫を重ねて適応し厳しい環境の中を生きてきたか、それをどのように代々伝えてきたかについて、極北に生きるロシアのチュクチ族のトナカイ放牧に関する映像記録を通じて理解する。
第14回法と慣習ボルネオのルングス族と伝統的慣習法の世界について学習し、慣習が伝統的世界観と深く結びついていることを理解する。同時に、現代の少数民族が置かれた重層的な価値観の変容について考える。
第15回前期の総復習前期に学習したことについて、まとめと補充を行う。
第16回交換と経済①経済と交換に関する文化人類学の研究がどのような観点でなされてきたかについて、マルセル・モースの贈与論をはじめ、経済人類学のいくつかの理論的立場を解説する。
第17回交換と経済②伝統社会における交換と経済について、いくつかの事例を挙げ、カール・ポランニーによる経済人類学の理論をもとに解説する。
第18回交換と経済③クラかつてマリノフスキーが調査したトロブリアンド諸島の儀礼的交換「クラ」について、1971年の映像記録を通じて学習する。
第19回交換と経済④クラ1983年のクラ交換に関する映像記録を通じて、クラの現代的変容の方向性について考察し、あわせてクラの本質とは何かについて考える。
第20回交換と経済⑤ニューギニア社会における交換ニューギニアのイワム族を例として、社会における交換と人間関係の結びつきについて考える。わたしたち日本人の交換や人間関係のルールとの劇的な相違を、カルチャーショックとともに受け止め、普段当たり前と思っている自分自身の価値観を考え直す機会としたい。
第21回交換と経済⑤イヌイット社会の現代的変容現代化と貨幣経済の浸透によって引き起こされたイヌイット社会の激しい変容の中で、伝統的交換に基づく人間関係が、どのように生活を立て直すために応用されたかを学習する。
第22回宗教と儀礼①タンベルマ族の呪物崇拝人類文化の中でも中心的な価値観と結びつく宗教と儀礼について、文化人類学の基本的な考え方を理解する。まず、宗教とは何かについて考えるために、アフリカのタンベルマ族のディシンポと呼ばれる呪術崇拝を取り上げ、いわゆる三大宗教のような世界規模の宗教だけが宗教ではないことを学習する。
第23回宗教と儀礼②風水中国人の宗教の中でも、地理学や哲学にも通ずる風水について取り上げ、現代社会に生きる風水とは何かを考える。伝統社会の宗教は、単に宗教だけではなく様々な生活体型と結びつくことを学習する。
第24回宗教と儀礼③他界観念中国人の宗教において、他界観念が現世とどのようにかかわっているかを考えるため、「紙料」と呼ばれる紙製の供え物に焦点を当てて学習する。文化によって異なる「他界」の意味の世界の構築について考える。
第25回民族とアイデンティティニュージーランドのマオリ族の文化復興運動に関する映像記録を参考に、彼らが歴史的にどのようにヨーロッパ文化に同化し、また、いかにして自分たちの言語と文化的アイデンティティを復興させてきたかについて学習する。
第26回課題図書確認テスト第二回課題図書の下巻の内容に関する確認テストを行う。各自読書ノートを作成し、それを参照しながらのテストとする。
第27回民族文化の世界(映像資料)韓国の村の境界を守る神チャンスンについての映像記録と、アフリカの成人式の二本の映像記録を見る。前者は居住空間の境界線というものが文化的にどうとらえられているかについての学習である。また、後者は、通過儀礼とは何かを学習するとともに、大人の仲間入りをする、ということが文化的にどう位置づけられるのかを理解する。
第28回ケルト美術とヨーロッパ文化の深層ギリシャ・ローマ文化とは別のキリスト教以前のヨーロッパの文化伝統を体現するケルト人とその美術の特色を探り、現代によみがえるケルト文化の意味について考える。
第29回総括:異文化の理解これまでに提出してもらったレポートを返却するので、年間の授業の総括として、それぞれの受講生が異文化の理解に関する自分の意見を文章にまとめる。この回の総括で提出するレポートの内容が、本年度の授業の中で最も重要な位置づけとなる。
第30回授業の総復習一年間の授業を振り返りつつ、主要な内容について総復習する。
授業形式 講義と、資料を読んでその場でレポートを作成する形式、映像資料を見てレポートを作成する形式をローテーション形式で行いながら授業を進めます。授業は、言語と文化、家族と親族、経済と交換、宗教と儀礼、などの大きなテーマごとに2~4回の授業にまとめて進めていきます。1,2回で終わる短めのテーマの場合もありますが、すべて相互に関連した内容となっています。また、課題図書についての確認テストをしますので、指示に従って読書ノートを作成してください。
評価方法
定期試験 レポート 小テスト 講義態度
(出席)
その他 合計
50% 10% 20% 20% 0% 100%
評価の特記事項 学年末に試験を行います。学年末試験期間中に実施する定期試験です。履修登録をしておきながら定期試験に出席しないと、成績はD判定となります。
テキスト 授業時に配布またはエコリンクを通じて配布します。これらの資料は、授業の復習をする際に活用してください。
参考文献 ジャレ・ド・ダイアモンド著『銃・病原菌・鉄』上・下(課題図書)草思社
オフィスアワー(授業相談) 相談については授業終了後に受け付けます。必要に応じて空いている時間を相談に当てます。
事前学習の内容など,学生へのメッセージ
授業の際にもらった資料は、復習に使い、そのあとは各自がまとめてファイルノートに保管しておき、試験の前に読み直してください。
また、授業の準備学習を兼ねて、課題図書を各自で読み進めてください。課題図書は、文化人類学の授業全体を補佐する内容なので、学期末にまとめ読みをするのではなく、少しずつ読み進んで読書ノートを作成してください。読書ノートは授業の第一回目に配る設問プリントを見ながら、要点を自分でノートにまとめていきます。このノートは提出を求めませんが、年2回の確認テストの時に持ってきて、テストを受けてください。自分で計画を立てて2冊の本を1年間で読み終わることができるようにしてください。