講義名 マルクス経済学 ≪□第一部≫
講義開講時期 通年
曜日・時限 月4
単位数 4

担当教員
氏名
角田 収

学習目標(到達目標) 1 資本主義的生産の基本的な仕組みを労働価値論に基づいて理解し,資本がなぜ,どのようにして利潤を獲得するのかを説明できる。
2 資本主義的生産が、人類史の到達点であると同時に,その通過点でもあるという理解の仕方を身につけ,経済的諸現象を批判的に分析する能力を獲得する。
3 現代社会の経済的諸問題を,資本主義的生産の持つ対立的な性格と関連づけて理解し,説明することができる。
4 経済学における論理展開が抽象から具体へなされていくことを把握し,考察の対象となっている事象や論理の理解に当たってはその抽象段階に注意を払うことができる。
授業概要(教育目的) 経済学の課題は,対象とする社会である資本主義の経済構造=生産様式を解明することにあるが,そのためには資本主義発生の条件,それが自らを維持し,再生産するメカニズム,それを止揚する要因を発展させるメカニズムを理解しなければならない。このような観点から,労働価値論を基礎としてマルクス経済学の基礎理論を出来るだけ体系的に論じる。マルクスの『資本論』をベースとして,その後の研究成果にも目配りしながら,講義を進める。ただし,受講者の多くが,マルクス経済学に初めて触れる学生であろうことを考慮し,見解の分かれる問題については,論点を示すにとどめたい。
授業計画表
 
項目内容
第1回経済学の対象と課題経済現象とは何か。生産をめぐる人間同士の関係。社会システムと経済構造。経済学の課題としての資本主義の解明,そのための生成,発展,消滅の要因とメカニズム。
第2回商品と貨幣(1)商品は財と同じではなく,特定関係のなかにある財が商品となること,商品は使用価値と価値という2要因からなること,商品を創る労働は具体的有用労働と抽象的人間労働という二重性を持つこと。
第3回商品と貨幣(2)貨幣の本質は,商品交換における等価形態にある商品の発展した一般的形態、すなわち一般的等価物が金に固着したものであること,
貨幣の機能の主要なものは,価値尺度,流通手段,蓄蔵貨幣,支払手段,世界貨幣であること。
第4回小テスト
貨幣の資本への転化
商品・貨幣の理解を確認する小テスト。
資本の一般的定式として運動のなかで増殖する価値,しかし等価交換の前提ではこれは矛盾,その消費が価値形成である労働力商品の購入によるその解決,その存在の条件。
第5回資本とその増殖(1)資本主義的商品生産過程は,使用価値を生産する過程と価値を形成する過程とからなる。後者は、投下した資本価値を超える価値を持つ商品が生産されるとき価値増殖過程となる。この過程で,生産手段と労働力は異なる役割を演じ,不変資本と可変資本として規定されること。
第6回資本とその増殖(2)資本の増殖率としての剰余価値率を高める方法,労働日の延長による絶対的剰余価値の生産。
第7回資本とその増殖(3)労働日に占める必要労働時間の縮小による相対的剰余価値の生産,社会的標準を超える高い生産力の獲得による特別剰余価値の生産。
第8回資本とその増殖(4)労働様式の変革,協業,分業とマニュファクチュア,機械と大工業
第9回労働力の価値の賃金への転化労働力の価値は労働の価値として現象,労働の価値は概念として不合理だが存在根拠はあること,こうした転化によって資本主義的生産の本質が隠蔽されること,労働の価値=賃金は、時間賃金または個数賃金として現れること。
剰余価値論(4〜9回)の理解を確認する小テスト。
第10回資本の蓄積過程(1)資本生的生産は絶えざる再生産の過程として存在,再生産過程は資本・地労働関係を繰り返し生み出す,同一規模での再生産としての単純再生産,剰余価値を追加資本として投下することによる拡大再生産。
第11回資本の蓄積過程(2)資本蓄積の進行は、資本を剰余価値=無償で取得された他人労働の結晶とする,これは資本主義的取得法則が他人労働の無償取得に基づくことを意味し、自己労働に基づく商品生産の取得法則がその反対物に転変したことになる。
第12回資本の蓄積過程(3)資本構成の概念,資本蓄積と労働者人口の制約,資本構成高度化による相対的過剰人口の生産,相対的過剰人口の存在形態.
第13回資本の蓄積過程(4)資本生的生産の諸条件を生み出す過程としての本源的蓄積,小商品生産者の両極分解が経済的基礎過程,強力によるこの過程の促進,農民からの土地収奪による2重の意味で自由な労働力の創出と富の蓄積
第14回資本の蓄積過程(5)
小テスト
資本主義的蓄積の歴史的傾向,自己労働に基づく個人的所有から資本主義的所有へ,少数の資本家による多数の資本家の収奪,資本主義的外皮の爆破,アソシエイトした諸個人による個人的所有の再建,アソシエイションはどのような社会か。
蓄積論(10〜14回)理解確認の小テスト
第15回中間のまとめまとめ
第16回資本の循環資本循環の3形態とその意義づけ,分析対象によるそれぞれの循環視点の重要性。
第17回資本の回転資本価値の還流までの運動としての回転,回転時間と回転数,資本価値の還流の仕方によって区別された概念としての固定資本と流動資本,回転が価値増殖に及ぼす影響。
第18回社会的総資本の再生産と流通(1)商品資本循環の視点から社会的総資本を把握し,使用価値視点からの2部門分割と価値視点からの3価値構成に基づく再生産表式によってその運動を分析する。単純再生産の場合を考察し,過不足なく進行する条件を見いだす。
第19回社会的総資本の再生産と流通(2)拡大再生産がどのような場合可能であるかを考え,それが一定の条件の下で,如何にして進行するかを考える。
第20回社会的総資本の再生産と流通(3)
小テスト
単純再生産から拡大再生産への移行とそこにおいて生じる諸問題を考察する。均衡蓄積軌道等に関する諸議論。
社会的総資本の再生産と流通(16〜20回)の理解確認のための小テスト
第21回価格と利潤(1)資本主義の表面においては剰余価値は投下総資本から生じるものとして現れる。これを利潤とその投下資本に対する比率としての利潤率と概念し,それによる資本主義的生産過程の本質の隠蔽が如何になされるかを考える。
第22回価格と利潤(2)異なる生産条件の下で生産される同一種類の商品が部門内競争を通してそこに投下された労働量によって規定される一つの市場価値を形成すること,市場価値によって商品が販売されると異なる商品を生産する諸部門では資本の有機的構成の相違による利潤率差が生じるが,資本はこれを許容せず,資本移動により,部門間での利潤率均等化が惹起される。
第23回価格と利潤(3)部門間利潤率の均等化による一般的利潤率の形成をもたらすような商品価格は,価値から乖離した生産価格であり,これが変動する市場価格の重心となる。転形問題も考える。
第24回利潤率の傾向的低下の法則(1)資本主義的生産の発展にともなって資本の有機的構成は高度化していき,これに規定されて利潤率が低下して行くことになる。有機的構成の高度化による利潤率低下は,同時にこれに反対に作用する諸要因が働くことにより,傾向法則としてのみ現れることになる。こうしたことの持つ意義を考える。
第25回利潤率の傾向的低下の法則(2)有機的構成の高度化は同時に剰余価値率の上昇をもたらすので,利潤率の動向は不確定であるという異論に対し,後者は前者の作用を打ち消す範囲は限定的であることを示すことによって法則を論証する。これを否定する置塩定理を考察し,その意義を考える。
第26回利潤率の傾向的低下の法則(3)
小テスト
現代資本主義のもとで利潤率の傾向的法則の作用がみられるかどうかについての推計と議論を概観し,法則の意味を考察する。
利潤論(20〜25回)の理解の確認のための小テスト
第27回商業資本(商業資本の自立化)
利子生み資本
商品流通のみを取り扱う商業資本が自立する根拠とその利潤獲得が如何にしてなされるのかを労働価値論のもとで説明する。
資本として作用し,利潤を得ることができるという貨幣が受け取る特別な使用価値の価格が利子であること,これにより利潤は利子と企業者利得に分割され,前者こそが資本所有の果実であり、後者は資本家的労働の報酬であるとされる。これによる資本物神の完成を考える。
第28回資本主義の独占段階独占資本主義の基本的特徴として,独占体の成立,金融資本の支配,資本輸出の重要性の増大,国際独占体による世界分割がみられることを論じる。独占体による独占利潤取得の主要方法としての独占価格についても考える。
第29回理解度の確認要点のまとめ
第30回まとめまとめ
授業形式 原則として,毎回講義の概要をプリントしたものを配付し,それに沿って講義する。適宜,質疑を行いながら進める。ある程度のまとまりごとに小テスト等によって理解を確認する。
評価方法
定期試験 レポート 小テスト 講義態度
(出席)
その他 合計
60% 0% 30% 10% 0% 100%
テキスト 大谷禎之介『図解 社会経済学』桜井書店,2001 年,3000 円.
参考文献 マルクス『資本論』1~ 13,新日本出版社.
置塩信雄他『経済学』大月書店,1988 年.
平井規之他『経済原論』有斐閣,1987 年.
北村洋基『現代社会経済学』桜井書店, 2009 年
オフィスアワー(授業相談) 月曜3時限。原則として研究室にいるので、8号館受付から連絡の上、訪れて下さい。
事前学習の内容など,学生へのメッセージ 講義時間内に活発な質問と議論を行うような能動的な参加を求めたい。テキストをよく読むことに加えて『資本論』そのもの(とくに第1部=参考文献の『資本論』1 ~4)を自分で読むことを期待する。