講義名 公共経済学 ≪□第一部≫
講義開講時期 通年
曜日・時限 金3
単位数 4

担当教員
氏名
川出 真清

学習目標(到達目標) 公共部門の経済学である公共経済学の理論を学び,入門レベルの基本概念を正しく理解できる。市場メカニズムの限界とその解決策を学び,公的部門の存在理由と問題点を理解できる。政府介入がもたらす様々な副作用を理解し,政府介入の便益と費用を考えながら,実際に課題解決のための基本的な規範的解説と計算ができる。
授業概要(教育目的) 公共経済学ではミクロ・マクロ経済学の復習をふまえ,公共経済学における基本概念の理解を深める。具体的には市場メカニズムの限界に対処する公的部門の現状を理解する。その上で,理想的な状況を示すミクロ経済学の配分に関する定理を通じて「市場の失敗」を理解し,その方策と限界を理解する。また,財政に不可欠な資金調達としての課税の課題を理解する。さらに,公的規制,社会選択,所得再分配や社会保障の理論的な構造と課題を解説する。各概念の理論的な背景を理解し,現実的課題の規範的解決策を理解する。
授業計画表
 
項目内容
第1回公共経済学の概要1:ミクロ・マクロ経済学との違い公共部門の経済学である公共経済学が,入門科目として学んできたミクロ経済学やマクロ経済学との考え方の違いという視点を通じて,学科全体の基本的な考え方を理解する。
第2回公共経済学の概要2:財政活動の実際,規範の役割公共部門の具体的な全体像を紹介し,制度及び実際の課題調査を行う財政学と規範的かつ一般化された理論による考察を行う公共経済学の違い,公共経済学が財政活動に果たす意義を理解する。本講によって,財政活動の基本的なイメージを作る。
第3回公共経済学の概要3:ゲスト講義財政の実務に携わっておられる方々から,財政の課題について講義いただく。継続的な問題から,現在注目を浴びている話題に至るまで,広範な内容を説明いただき,質疑応答することで,公共部門への具体的なイメージを高める。なお,財政に関する新聞記事などを読み,関心を高めておくこと。
第4回ミクロ・マクロ経済学の復習:入門レベルの復習1年次に学んだミクロ経済学及びマクロ経済学の基本事項を確認し,習熟を深める。なお,主に1年時に学んだテキストに目を通しておくとよい。
第5回ミクロ経済学の復習:理想的な交換経済の基本定理公共経済学の出発点となる,ミクロ経済学で学んだ理想的な交換経済の妥当性を再確認し,今後重視する前提条件の理解も深める。なお,前回講義の講義資料を熟読しておくとよい。
第6回なぜ公共経済学が必要か? 1:ただ乗り問題と市場の失敗理想的な交換経済が前提とする条件が成り立たない「ただ乗り問題」とは具体的に何かを理解し,政府がない状態での公共財供給がどうなるか理解する。
第7回なぜ公共経済学が必要か? 2:サミュエルソン・ルール政府による公共財供給がなぜ望ましいかを,その基準となるサミュエルソン・ルールとの関連で理解する。なお,前回講義の講義資料を熟読しておくとよい。
第8回公共財問題の解決法1:リンダール・メカニズム「ただ乗り問題」が存在する場合の解決策の一つであるリンダール・メカニズムを理解し,その意義,限界を理解する。なお,前回講義の講義資料を熟読しておくとよい。
第9回公共財問題の解決法2:クラーク・メカニズム,クラブ財「ただ乗り問題」におけるリンダール・メカニズムの課題を解決するクラーク・メカニズムを理解し,その意義,さらなる限界を理解する。なお,前回講義の講義資料を熟読しておくとよい。
第10回公共財問題の解決法3:まとめと復習「ただ乗り問題」が存在する場合の解決策の基本的な考え方を確認し,両者を比較検討しながら,一層の習熟を深める。なお,第6講から第9講までの講義ノートを事前に熟読するのが望ましい。
第11回市場の不在による「市場の失敗」:外部性理想的な交換経済が前提とする条件が成り立たない「外部性」とは具体的に何かを理解し,外部性が存在する場合の課題を確認する。
第12回外部性問題の解決法1:ピグー税「外部性」が存在する場合のもう一つの解決策であるピグー税を理解し,その意義,限界を理解する。なお,前回講義の講義資料を熟読しておくとよい。
第13回外部性問題の解決法2:コース定理「外部性」におけるピグー税の課題を解決するコース定理を理解し,その意義,さらなる限界を理解する。なお,前回講義の講義資料を熟読しておくとよい。
第14回外部性問題の解決法3:まとめと復習「外部性」が存在する場合の解決策の基本的な考え方を確認し,両者を比較検討しながら,一層の習熟を深める。なお,第11講から第13講までの講義ノートを事前に熟読するのが望ましい。
第15回前半講義のまとめ前期の講義を全体的に概観し,公共部門の必要性と課題について,基本的理解を定着させる。なお,第6講から第14講までの講義ノートを事前に熟読するのが望ましい。
第16回資金調達の課題1:労働所得課税1財政活動のもう一つの軸である資金調達としての課税について,労働所得税の概要と基本的課題を理解する。
第17回資金調達の課題1: 労働所得課税2労働所得税における一括税と比例税の違いがもたらす超過負担の差異に関する理解を通じて,労働所得税の持つ問題点の理解を深める。なお,前回講義の講義資料を熟読しておくとよい。
第18回資金調達の課題2:資本所得課税資本所得税の概要と基本的な課題を理解し,超過負担の問題点もあわせて学ぶ。また,法人税の妥当性と課題を理解する。なお,前回講義の講義資料を熟読しておくとよい。
第19回資金調達の課題3:消費課税1間接税である消費税の概要と基本的課題を理解し,超過負担の問題点も理解する。なお,前回講義の講義資料を熟読しておくとよい。
第20回資金調達の課題3:消費課税2消費税において,需要者と供給者の価格弾力性を用いながら,課税の負担関係を表す転嫁・帰着について学ぶ。なお,前回講義の講義資料を熟読しておくとよい。
第21回資金調達の課題4:税制改革のあり方とまとめ理論上の望ましい税制と実際の税制との相違を通じて,両者の違いの原因,今後の方向性と課題を理解する。なお,第16講から第20講までの講義ノートを事前に熟読するのが望ましい。
第22回政策決定の問題点1:公共選択財政民主主義において,必須かつ不可避な議会による財政運営が持つ課題を理解する。
第23回政策決定の問題点2:財政政策と景気短期的な景気対策としての財政政策が持つ効果,課題について理解する。なお,前回講義の講義資料を熟読しておくとよい。
第24回政策決定の問題点3:公債の役割と世代間負担財政運営の過程で生じる公債についての肯定的及び否定的な考え方や,財政破綻の条件を理解する。なお,前回講義の講義資料を熟読しておくとよい。
第25回官か民か1:補助金の便益と費用財政支出の重要な役割の一つである補助金がもたらす便益と課題について,超過負担を通じて理解を深める。
第26回官か民か2:公的規制政府の重要な役割の一つである公的規制の便益と費用を,超過負担の概念を用いて理論的に理解する。なお,前回講義の講義資料を熟読しておくとよい。
第27回個別分野の課題1:社会保障の意義と課題社会保障の分類と意義を理解し,特に公的扶助の効果と課題を理解する。
第28回個別分野の課題2:地方自治の意義と地方分権中央集権から地方分権へと移行することの意義を,規範的な視点から理解する。
第29回後半講義のまとめ後期の講義を全体的に概観し,個別項目の質疑等を通じて,公共部門の必要性と課題について,基本的理解を定着させる。なお,第16講から第28講までの講義ノートを事前に熟読するのが望ましい。
第30回全体のまとめと質疑応答本講義の全体像を確認し,さらなる習熟を深める。
授業形式 講義形式で行う。前期に基本事項を理解した上で,後期には具体的な政策実行における作用と副作用を検討して,実際の政策に潜む理論的課題を確認して行く。
評価方法
定期試験 レポート 小テスト 講義態度
(出席)
その他 合計
70% 30% 0% 0% 0% 100%
評価の特記事項 レポート未提出でも定期試験に高得点を取れば単位取得は可能だが,万全を期すために確実なレポートの提出を強く勧める。
テキスト 井堀利宏(2013)「財政学(第4版)」,新世社,2300円(税別).
参考文献 上村敏之(2007)「コンパクト 財政学」,新世社.
釣雅雄・宮崎智視(2009)「グラフィック 財政学」,新世社.
ジョセフ・スティグリッツ(2003)「公共経済学 上・下(第2版・藪下史郎翻訳)」,東洋経済新報社.
井堀利宏(2009)「日本の財政・税制(3訂版)」,税務経理協会.
土居丈朗(2002)「入門公共経済学」,日本評論社.
オフィスアワー(授業相談) 火曜日5限(16:20~17:50)で,希望者は電子メールで事前に予約すること。電子メールアドレスは講義初回に伝える。
事前学習の内容など,学生へのメッセージ 講義中に触れるように,理論は無機質で現実との接点を見いだしにくかったり,わかりにくいことが多いですが,そこに現実的な有用性があります。本講義を通じて,「理論というものは非現実的だ」と安易に投げ出すことなく,理論の意義の不明瞭さの中にある理論の有用性,重要性が分かる人材になってほしいと思います。
授業用URL https://sites.google.com/site/kawademasumi/