講義名 国民所得論 ≪□第一部≫
講義開講時期 通年
曜日・時限 火4
単位数 4

担当教員
氏名
枝松 正行

学習目標(到達目標) 1.国民経済計算の集計方法の違いから多様な所得概念を理解し、国民所得の三面等価原則を説明できる。
2.戦後日本経済の発展段階と現状を国民経済計算統計の相関性から一般的に説明できる。
3.現代政治経済問題への自分自身の疑問に対して実際に国民経済計算統計を活用して現状を説明できる。
授業概要(教育目的)  国民所得とは国民全体が得る所得の総額であるが、集計方法は使用目的の違いから何通りもある。たとえば、経済成長率の集計は1993年からはGNP表記からGDP表記へと変更されたが、NNPやNDPという集計方法もある。これらはいずれも生産額からみた所得の異なる集計方法であるが、生産・分配・支出のそれぞれからみた経済活動の集計方法もある。前期はこのような国民所得分析の三面等価の原則を概説する。後期は国民所得の発生要因・量的決定要因・分配要因等の考え方を学びながら、これらの経済統計を実際に活用して日米経済関係を中心とした現代世界経済を歴史的かつリアルタイムで具体的に分析していく。
授業計画表
 
項目内容
第1回ガイダンスこの講義内容の目標と全体計画や受講の心得など諸注意を理解する。
【準備学習】
この講義の目標や課題を理解し、早速テキストを読み進める。
第2回国民所得とは何か 所得の形態と一般的本質を踏まえつつ、諸概念の使い分けを理解する。
【準備学習】
テキストの該当箇所を参照しつつ、経済統計の様々な集計方法とその使用目的の違いを大まかに理解する。
第3回生産国民所得-1 ミクロとマクロ、フローとストック、重複計算、付加価値、固定資本減耗、減価償却費、純と粗と総の概念としての区別を理解する。
【準備学習】
テキストに即して生産国民所得という概念の抽象性についても考えてみる。
第4回生産国民所得-2 粗付加価値と最終生産物の関係、国内と国民、総生産と純生産、経済成長率などの概念と区別を理解する。
【準備学習】
たとえば、GDPとGNP、NDPとNNPの違いは何かなど考えてみる。
第5回分配国民所得-1 国や地域の居住者の所得総額の捉え方、雇用者所得と営業余剰、所得の移転、所得の再分配、賃金と利潤、個人企業の概念を理解する。
【準備学習】
真の意味の所得とは本来的には何かをテキストからも確認しておこう。
第6回分配国民所得-2 国民経済計算で用いられる具体的な所得概念について総括的に理解する。
【準備学習】
企業所得や財産所得などの概念もまとめておく。
第7回支出国民所得-1 消費と投資の合計額としての支出概念、在庫増加・在庫投資、粗支出、消費財と投資財、粗固定資本形成と純固定資本形成などの概念を理解する。
【準備学習】
粗支出と純支出とはどう違うのか考える。
第8回支出国民所得-2 国民経済計算で用いられる具体的な支出概念について総括的に理解する。
【準備学習】
GDEとGNE、NDEとNNEの違いから考えてみよう。
第9回国民所得と輸出入 輸出入は生産・分配・支出の概念にどう取り込まれるかを理解する。
【準備学習】
輸出入を考慮した実質国内所得について考えてみる。
第10回国民所得と間接税・補助金 間接税に伴う市場価格表示の純生産と要素費用表示の純生産の区別と補助金の捉え方を理解する。
【準備学習】
間接税と補助金は生産・分配・支出の概念にどう取り込まれるかを考えてみる。
第11回二つの純生産と本来の純生産、間接税増税とGDPの関係 間接税のない場合や間接税が価格に転嫁する程度に応じてなど二つの純生産と本来の純生産の関連、間接税増税とGDPの関係などを考える。
【準備学習】
二つの純生産と本来の純生産の概念を確認しておく。
第12回国民所得勘定の部門分割と全体的関連 複式簿記の原理と国民所得勘定の部門分割について理解する。
【準備学習】
海外部門と国内部門という捉え方に注意する。
第13回現代日本の資金循環統計と基礎的財政収支から見た日本の所得再分配構造 日本の対外純資産や長期金利、消費税率・所得税率・法人税率の国際比較に基づいて日本の所得再分配構造を考える。
【準備学習】
プライマリーバランス健全化のための税と社会保障の一体的改革の結果とされる消費税増税について考える。
第14回理解度の確認 これまでの要点のまとめ
第15回中間のまとめ まとめ
第16回国民所得の発生要因-1
国民経済計算統計が前提とする三位一体論の問題点について深く考えてみる。
【準備学習】
この前提それ自体を社会科学的に特徴づけてみよう。
第17回国民所得の発生要因-2
おもに諸所得の存在要因と同種所得の格差要因について考える。
【準備学習】
賃金、利潤、地代、利子等の発生要因と格差要因とは何かについて考えてみよう。
第18回国民所得の量的決定要因-1
乗数理論とはどういうものかを学んでみる。
【準備学習】
有効需要の理論と乗数理論のそれぞれの含意とは何かをまとめてみよう。
第19回国民所得の量的決定要因-2

斎藤理論の独自の功績である乗数理論と再生産表式の接合について学んでみよう。
【準備学習】
乗数理論と単純再生産・拡大再生産表式のそれぞれの含意および両者の接合を考えてみよう。
第20回国民所得の分配要因-1
所得分配率の定式と要因、パイの理論、ローレンツ曲線、ジニ係数について学ぶ。
【準備学習】
賃金と利潤の分配割合はいかにして決定されるかについての諸説について考えてみる。
第21回国民所得の分配要因-2

所得の分配率としての利潤率の傾向について学ぶ。
【準備学習】
利潤率の傾向を決定する二つの条件は現実的に何をもたらしてきたのかを考えてみよう。
第22回国民所得分析・経済統計と戦後日本経済-1
戦後のドル円為替レートと戦後日本の経済成長率、日経平均株価チャートの相関性からみた日本経済の発展段階区分について約70年間のトータルな見方を学ぶ。
【準備学習】
今後配付する各経済統計の基本的な見方をその都度復習しながらマスターしていく。
第23回国民所得分析・経済統計と戦後日本経済-2
戦後IMF固定為替相場制下での日本の戦後復興・高度経済成長の基本的特徴とGNP統計の意味を理解する。
【準備学習】
国民経済計算としても一時的な黄金時代をなし遂げた1960年代日本経済の客観的競争優位条件はどこにあったのかを具体的に考える。
第24回国民所得分析・経済統計と戦後日本経済-3 変動為替相場制下での日本経済の発展段階区分をドル円為替レートと先進国の政策金利チャートの両面から考えてみよう。
【準備学習】
とくにニクソン・ショックとプラザ合意が日本経済に何をもたらしたのかを考えてみよう。
第25回国民所得分析・経済統計と戦後日本経済-4 日本のバブル経済化とバブル崩壊の原因およびバブル崩壊がもたらした影響を歴史的かつ具体的に考える。
【準備学習】
いわゆる「失われた20年」に生じた日本の政治経済構造の巨大な変容過程を歴代政権とその政策決定メカニズムの変化から具体的に掘り下げて考えてみる。
第26回国民所得分析・経済統計と戦後日本経済-5
現行アベノミクスの政策論を経済統計にしたがって多面的に評価する。
【準備学習】
消費増税・原発再稼働・TPP参加・安保関連法を基本とするアベノミクスのマイナス金利付き異次元量的金融緩和とはいったい何をもたらしつつあるのか経済統計にしたがって検証する。
第27回国民所得分析・経済統計と現代世界経済-1 英ポンドと米ドルが国際基軸通貨時代の200年を概観しながら100年に一度とされるリーマンショック以後の世界経済に何が起きているのかを考える。
【準備学習】
アメリカ財政危機、ドバイショック、ギリシャ危機からEU財政危機へと波及し、G20体制への転換やTPP、BIS/IMF/世銀改革の動向についても考える。
第28回国民所得分析・経済統計と現代世界経済-2BRICS開発銀行やAIIB設立57か国体制の発足と米ドル・BIS・IMF・世銀・国際通貨体制の再編や米大統領選挙動向の関連も実証的に展望する。
【準備学習】
原油安やウクライナ問題・シリア停戦とISテロなど中東・極東情勢の背景にも経済統計が指し示すグローバル経済の大きな変化があることを読み取りたい。
第29回理解度の確認16回以降の要点のまとめ
第30回まとめまとめ
授業形式 基本的には講義形式であるが、毎回の出席票の裏面を活用して学生諸君の質問・意見・要望などを自由に提出して貰い、次回の冒頭に匿名で紹介しこれらに応えるという参加型の講義を毎回実践している。
評価方法
定期試験 レポート 小テスト 講義態度
(出席)
その他 合計
40% 30% 20% 10% 0% 100%
テキスト 斎藤重雄著『所得とサービスの基礎理論』桜門書房.
参考文献 岩本沙弓著『経済は「お金の流れ」でよくわかる』徳間書店.
オフィスアワー(授業相談) 毎週火曜日の本授業終了後。
事前学習の内容など,学生へのメッセージ テキストや課題図書を各自読み進めておくとともに、授業で配付した統計資料についてはその都度解析方法を反復して説明できるようにしておく。また国民所得論の真の教科書は現実世界の分配問題そのものであるから、グローバル経済の所得格差やアベノミクスの動向など日々のニュース報道には常に感度を高くしておくこと。