講義名 社会保障論 ≪◇学部≫
講義開講時期 通年
曜日・時限 水5
単位数 4

担当教員
氏名
髙智 英太郎

学習目標(到達目標)  〇社会政策の根幹の一つである社会保障政策。わが国は戦後間もない混乱期に国民皆保険を構築、国民生活の安心・安全の礎を形成した。2000年度には介護保険を創設。計5つの社会保険による社会保障制度の屋台骨を整備にした。受講により、日刊紙・専門誌の社説や解説欄の論文・報道記事を経済学の視点で把握できるよう支援する。〇OECDなど社会保障の課題を担当する国際機関や外国が発するファクトシート等のポイントを経済学及び国際比較の視点から捉え、社会保障制度の実施運営上の動向・課題・展望についても同様の視点で学生自らの力で説明できること。                                  
授業概要(教育目的)  「社会保障論」は比較的新しい学問体系に属する。用語の由来は1935年の「米国社会保障法」まで遡るが、わが国の社会保障制度は、1950年に当時の社会保障制度審議会が示した「勧告」をもとに逐次、拡充整備されてきた。社会保障制度は社会保険5制度のほか、社会福祉、公衆衛生、児童育成、雇用、環境政策など広範に及ぶ。授業では、「社会保障は生き物」を旗印に、国会論戦の実際と法案の持つ意義を始め、関係審議会の「生資料」をもとに、関係各側により異なる価値判断と対応の相違を生活者の目線と経済学的視点から追求する。外国制度については現地の書記官報告書を資料提供し、わが国制度との比較検討に資する。
授業計画表
 
項目内容
第1回ガイダンス1.通年講義の概要について説明する
2.前期計14回の授業と前期試験について詳細説明する
3.社会保障論と社会保障制度の歴史について概要説明する
4.社会保障制度の課題を実際の例示で解説する
【準備学習】
 本日配付した印刷物「社会保障」(講師執筆)を熟読し ておくこと。
 
第2回社会保障制度のしくみ  社会保障制度の必要性が認識され、国として本格的な 取組みを開始する契機となった「社会保障制度に関する 勧告」(1950)、更に「国民皆保険・皆年金」(1961)に 焦点をあて、戦後の混乱の余波が色濃く残る時代背景の 中でも着々と続行された社会保障制度の礎構築の歴史を たどる。憲法の条文中で見られる社会保障関連の表現に
 ついても触れる。
 【準備学習】
第3回社会保険のしくみ1.社会保障制度の根幹を占める社会保険という仕組みにつ いて概観する。傷病を始めとする保険事故、被保険者と
 保険料、保険者、保険給付、利用者負担などの構成要素 について説明する
2.社会保障制度体系の中での「保険」の位置づけについて
 説明する
【準備学習】
第4回(1)医療保険
 -基本的なしくみ-
1.医療保険の基本的なしくみについて把握する。
2.難しい専門用語ではあるが、現物給付、償還払(療養費 払い)、医療保険者、診療報酬支払方式などに触れる
3.わが国の国民皆保険の構造、加入する医療保険の種類、 保険者、被保険者、保険料等のしくみを説明する
【準備学習】
第5回(2)医療保険
 -給付概要―
1.医療保険を通じて給付される法定給付の範囲、受診時の
 患者一部負担、高額療養費制度のしくみについて説明
2.給付サービスの価格表である診療報のしくみ、傷病手当 金を始めとする金銭給付、保険診療と保険外診療を組合 わせる混合診療について問題点を含めて説明する
【準備学習】
第6回(3)医療保険
-高齢者医療制度-
-国民医療費-
-医療提供体制-
1.高齢者医療を特別に設ける理由は何か、必要性と特徴を 把握する。旧老人保健制度から新高齢者医療制度への移 行についても学ぶ。
2.わが国の医療費の構成について国民医療費の分析結果を みる。病院・診療所・薬局など医療提供体制についても
 現状と問題点について解説する
【準備と学習】

第7回(4)介護保険
-基本的な仕組み―
1.介護保険が創設された経緯、社会的背景について把握。
2.制度の枠組みを概観しつつ、要介護状態、保険者、被保険者、保険料、財政構造のしくみについて学ぶ。
【準備学習】
第8回(5)介護保険
-保険給付-
1.要介護認定の手続きと給付の内容について、具体的な内 容や特徴を含め、また医療保険との比較検討も試みる。
2.制度運用の状況についても統計資料を用いて説明する
3.居宅介護支援、地域包括支援センターなど、最近の介護 保険の周辺事情についても一部詳しく説明する
【準備学習】
第9回(6)年金保険
-基本的なしくみー
1.年金保険の存在意義と具体的なしくみについて把握す  る。老後所得保障制度の根幹といわれるが「制度100年 の安心」は担保されていのか等について話題提供する
2.国民皆年金1(1961~)のしくみと過去の制度改正及び
 複雑極まる現行制度の基本的枠組みについて説明する
【準備学習】
第10回(7)年金保険
-被保険者、保険料、保険者-
-老齢年金、給付水準-
1.年金保険制度体系を正確に把握したうえで、国民年金と 厚生年金の双方について、被保険者の種別とそれに応じ た保険料負担の実際(ルール)について学ぶ。
2.受給者数が最多で代表的な老齢年金について、国民年金 と厚生年金に分けて「受給資格」、「年金額の算定方  式」について概要を説明する。
【準備学習】
第11回(8)労働者災害補償保険
1.人を雇って事業を行っている事業主の業務上災害に対す る無過失責任を基盤に置いた労災保険の特徴(他の社会 保険とは異なるルールを採用)を中心に説明。
2.具体的には適用範囲、保険料負担、給付内容と水準につ いて学ぶが、社会問題化している「過過労死」や「過労 自殺」などについても検討材料に加えて説明する
【準備学習】
第12回(9)雇用保険1.雇用保険の基本的なしくみについて、被保険者、保険  料、受給要件、給付内容・水準などの実際を把握する
2.もともとは失業保険と称されていた当該保険。現に雇  用保険を利用できない人々を対象とした求職者支援制度
 について、その役割機能を説明する
【準備学習】
第13回(10)近年における社会保険改革1.「少子・高齢・多死社会」の進展、同時に繰り広げられ る経済構造の変革によって生み出される非正規雇用の拡 大と雇用の不安定化、更にはそれらを素地として浮き彫 りになる厳しい財政状況など、社会保険各制度はいずれ も大胆な改革要請に応える必要性に直面している。外国 における取組状況を含め、対応の実際を説明する
【準備学習】
第14回理解度のまとめこれまでの要点のまとめ
第15回中間のまとめまとめ
第16回前期講義の復習と評価1.前期講義のポイントについて再確認する
2.前期試験実施結果について講評する
3.夏季休暇中に作成した「レポート」の提出を受付ける
4.通常国会における社会保障関連法案の審議について振り 返り、ポイントを説明
【準備学習】


第17回先進国と発展途上国における社会保障制度の課題と展望1.社会保障制度を本格的に実施している国と地域を挙げて
 それぞれが持つ特徴や財源構成、給付水準、利用者負  担、施設・人的配置の状況(提供体制)について説明
2.発展途上国における社会保障制度の実際と改革課題に
 ついて実例を挙げて説明
【準備学習】


第18回(1)外国における社会保障制度の実際と政策課題
-ドイツ①-
1.わが国の医療保険制度の範とされたドイツ制度。改革に 次ぐ改革の実際(変容ぶり)を検証しつつ、説明
2.公的医療保険(介護保険)制度と民間医療保険制度の
 併用で「国民皆保険」を達成している状況と課題につい て、「公的医療保険中央連合会」作成の資料をもとに
 輪郭を説明
【準備学習】
第19回(2)外国における社会保障制度の実際と政策課題
-ドイツ②-
1.公的介護保険の創設(1995)に至るまで20数年間の国民 的議論、雇用主サイドの制度導入反対論(当時)の理由 などに触れる
2.施行後3ヵ月は「(保険料)負担あって給付なし」、施設 入所給付は制度施行から1年半後とし、在宅介護給付を 優先させた経緯、ほとんど保険料収入だけで実施運営さ れる制度設計についても詳細に触れる
【準備学習】
第20回(3)外国における社会保障制度の実際と政策課題
-アメリカー
1.今回の大統領選でも争点となった「オバマケア」につい て「撤廃」を声高に叫んだトランプ氏。政権交代後はど のような対応で臨んでいるのか、説明を加える
2.公的制度であるメディケアとメディケイドの歴史を振り 返る中で、給付限度など現実的な課題についても説明
【準備学習】
第21回(4)外国における社会保障制度の実際と政策課題
-フランス-
1.医療保険制度に焦点をあてる。わが国と同じ、社会保険 方式を採用している同国の保険運営の実態を配付資料を 通じて確認する。「患者一部負担」にも触れ、重点給付 (代替薬がない場合は負担免除)の実際と問題点、
2.医療提供体制の日仏比較を示しつつ、患者の受診行動に 伴う不便さなどについて特徴を押さえて説明する
【準備学習】
第22回(5)外国における社会保障制度の実際と政策課題
 -オランダ-
1.実験国家などと称されることもあるオランダ。効率的を 飛び越した特異な政策手法も見て取れる同国の医療保険 制度の概略を説明する
2.介護分野の研究(国際比較研究含む)にも意欲的に取り 組むオランダの介護事情についても言及、解説する
【準備学習】
第23回(6)外国における社会保障制度の実際と政策課題
 -北欧諸国-
1.北欧諸国の社会保障という言い回しは正確ではないとさ れる。各国により、政策手法が異なるところが少なくな いからだが、授業ではスウェーデンを取り上げ、同国の 医療保障制度の輪郭と医療提供体制の工夫の実際をみる
2.北欧4ヵ国の統計年報の実際に触れる。言葉の壁を排除 した見事な統計技術についても説明を加えたい

第24回(7)外国における社会保養制度の実際と政策課題
 -ロシアー
1.ISSA(国際社会保障協会)が主催したロシア・モスク ワ会議 (2007)に遡り、明らかにされたロシアの保健 医療事情、医学部運営上の問題点、アルコール依存症と 平均寿命低迷という社会問題
2.社会問題と化している「入院ウェイティング・リスト」
 と待ち時間の長大化について説明する
第25回(1)国際機関による社会保障せいどへの取組み
  OECD(経済協力開発機構)
1.フランス.パリに本部を置く当該機構の発足時からの歴 史、加盟国の少なさ故に「クラブ的色彩」が濃いとい  う特色にも触れ、得意とする保健医療政策に関する情報 発信(OECD-Health Data)について詳細を解説する
2. 過去に注目を集めた「経済危機後の保健医療制度の優 先課題」など、当該分野への取組みと成果を解説する
【準備学習】
第26回(2)国際機関による社会保障制度への取組み
  ISSA(国際社会保障協会)
  ILO(国際労働機関)
1.当該協会の前身となった共済組合及び疾病基金国際会議 (1927)を経て、再建会議の決定のもと現在のISSAとな った(1947)小史について触れる。2015年現在の加盟国 157、340団体の活動実績について説明する
2.ベルサイユ条約に基づき創設された(1919)ILOの歴史 的発展と「ILOの社会保障」を近年の活動実績からその 存在意義の重要性についても説明する
【準備学習】
第27回(3)国際機関による社会保障制度への取組み
  EU(欧州連合)
1.英国のEU離脱や経済の混迷が続く加盟国の取り扱いな  どで揺れるEU(欧州連合;27ヵ国加盟)の社会保障制度 改革をめざす活動の実際について説明する
2.OECDと同様に「社会保障関連データ」のとりまとめに 成果を挙げている。統計技術の高度化は常に注目に値す る。実例を挙げて説明。発展の推移について概観する
【準備と学習】

第28回(4)国際機関による社会保障制度への取組み
  WHO(世界保健機関)
            
1.スイス・ジュネーヴに本部を置くWHOは、もともと国際 連合の専門機関として設置された(1948)。授業では、WHO憲章による健康とは、「完全な肉体的、精神的及び社会福祉の状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」とする定義について、その哲学を再確認する
2.「国際保健規則」(IHR)に基づく「国際的に脅威となる公衆衛生緊急事態」(WHOへの報告義務)について解説する
【準備学習】
第29回理解度の確認これまでの要点のまとめ
第30回まとめまとめ
授業形式  各回、本論に入る前に、国会論戦や社会保障審議会、中央社会保険医療協議会の審議状況概要を説明する。議論の中核は何か、意見の隔たりはどこにあるか、今後の展望等にわたる。併せて、社会保障関連の記事・社説・解説などにも触れ、経済学部学生としての常識の水準引上げを図る。授業の効率化と学生の向学心を上げるため、折りにふれて講師作成の参考資料、国際機関や外国政府のプレス発表記事等を配付する。これらは、定期試験の際に持ち込み可とするもの。活用と保存にも留意。試験では「他人のノート」コピー持込みは厳禁。受講に際しては、自身の努力でテーク・ノートする習慣を身に着けることがとても大切!。
評価方法
定期試験 レポート 小テスト 講義態度
(出席)
その他 合計
75% 15% 0% 10% 0% 100%
評価の特記事項 最も重視するのは「通年2回」の定期試験の結果。試験で良い評価が得られない場合に備え、随時「任意の課題レポート」(A4用紙、「横打ち40字×40行=1,600字が標準体裁)を受付けます。
テキスト 講義で用いる特定のテキストはない。折に触れて参考文献、単行著等を紹介する。必要に応じて、講師から講義テーマに沿った印刷物を配付するので、常にファイル保存しておくこと。定期試験では「持ち込み可」。
参考文献 田中耕太郎『社会保険のしくみと改革課題』放送大学教育振興会,2130円+税
健康保険組合連合会『社会保障年鑑』東洋経済新報社(~2009まで),3,400円+税
高智英太郎『保険と年金の動向』(厚生労働統計協会;共著),2,500円+税
高智英太郎『ドイツ医療関連データ 2016年度版』(一)医療経済研究機構,非売品
オフィスアワー(授業相談) 開講日(水)午後4時から受け付けます。15分を超える時間を要する場合には別途アポントを取ってください。受講生のニーズに的確に応えるために、質疑・相談の内容は要領よく、簡潔を旨としてください。外国や国際機関の文献・統計の活用方法、レポートのテーマ設定等々、幅広に対応します。保健体育審議会に所属する受講生の相談も歓迎します。躊躇や遠慮することなく、気軽にアプローチしてみてください。
事前学習の内容など,学生へのメッセージ 1.各回、授業の終わりに次回講義のポイントを告げる。
2.予習優先で受講することがプラスに働く。聴講中に自分が予習した内容を再確認  できるからである。
3.常に、経済学の視点で課題、問題点の本質を見出す努力を傾注してほしい。
4.「社会保障財源(税・保険料・利用者負担)」と「給付・水準・質」の関係につ  いて考察を深める努力が大切だ。議論の拡散防止に役立ち、問題点の本質を見失  うことも防げるからである。