講義名 経済政策論 ≪◇学部≫
講義開講時期 通年
曜日・時限 水2
単位数 4

担当教員
氏名
小滝 一彦

学習目標(到達目標)  経済政策は、縦割りの政府部門によって所管され、それぞれの制度やロジックに基づいて実施されている。しかし、どの経済政策も、経済学の知見によって、その必要性や、実施の方向性が検討され、検証されることが可能であり、また必要でもある。この講義では、経済政策の必要性や問題点について、自らの思考によって的確に判断できるようになることを目標とする。多岐にわたる経済政策を、その必要性を説明しうる経済学の体系によって分類し、各政策の必要性や、現実の政策の問題点を自分の言葉で説明できるようにする。
授業概要(教育目的)  経済政策を、その必要性の根拠となるミクロ経済学、マクロ経済学の順に整理して説明する。個別政策がなぜ必要でなぜ有効か、現実の政策にどのような問題があるかを,具体的事例をもとに説明する。講義は元中央省庁(経済産業省)の教員が、経済理論のみならず、実際の政策立案過程における世論や政治からの圧力や、現在の行政システムによる問題点を解説し、現実の経済政策への理解を深めるよう説明する。
授業計画表
 
項目内容
第1回イントロダクション
講義の進め方。経済政策とは。
第2回経済政策の具体例 
受講生から経済政策の具体例について発言を求める。
【事前学習】
新聞やテレビ、あるいは高校の教科書から、経済政策の実例を見つけてくること。2時間
【事後学習】講義で取り上げた経済政策の範囲について再考する。2時間
第3回厚生経済学
市場に任せたほうが全てうまくいく,という意見はどのような理論的裏付けによるのか,厚生経済学の基本定理を,具体例を通じて理解する。
【事前学習】
「政府の対応が求められます」という報道を見つけ,本当に対応が必要か考えてみること。2時間
【事後学習】政府が必要な場合を考えてみる。2時間
第4回政府の失敗
経済政策の典型的な失敗を取り上げ,経済政策の必要性を限定的に考えることを学ぶ。
【事前学習】
経済政策の失敗例について,単なる非効率や見込み違いに留まらず,予定通り効率的に実施されたとしても世の中にマイナスとなっている事例を探してくること。2時間
【事後学習】政府の失敗を防ぐ方法を考える。2時間
第5回市場経済がもたらすメリット:自由貿易
自由貿易のメリットを具体例として,なぜ市場が人たちを豊かにするのかを理解する。
【事前学習】
貿易の拡大によって,私たちの生活がどのように豊かになったか、具体例を見つけてくること。2時間
【事後学習】比較優位による分業がなかった場合を想像する。2時間
第6回政策の動機と効果:通商政策自由貿易で損をする人たち,彼らへの所得再分配と、関税、数量制限による非効率の発生について理解する。
【事前学習】
TPPへの反対論を探して,その言い分を理解してくること。2時間
【事後学習】なぜ保護貿易論が力を持つのか、考える。2時間
第7回市場の失敗1
公共財の意味と,公共財の提供水準について理解する。
【事前学習】
インフラ整備についての世間によくある要望や批判について,新聞などから探してくること。2時間
【事後学習】政府が作らなくても良いインフラの具体例を考える。2時間
第8回市場の失敗2
正と負の外部性の意味と,その補正方法を理解する。
【事前学習】
お金を払わないのに良い気分だったこと,不愉快だったことを思い出してくること。2時間
【事後学習】公害以外の外部不経済を考える。2時間
第9回市場の失敗3
規模の利益=費用低減産業が,典型的な市場経済とは異なる結果をもたらすことを理解し,独占の発生や,それに対する競争政策を考える。
【事前学習】
供給量を2倍にしても,コストがほとんど変わらない商品を探し,なぜそうなるのかを考えてくること。2時間
【事後学習】世の中がすべて「変動費用ゼロ」である場合を考える。2時間
第10回市場の失敗4
電力やガスや鉄道を例に,費用低減産業への規制の方法と,その問題点を考える。
【事前学習】
「電力自由化」についてのいろいろな意見を調べてくること。2時間
【事後学習】総括原価方式のマイナス面を是正する方法を考える。2時間
第11回市場の失敗5
問題のある商品やサービスの見分けが付かないと,何が問題かを考え,その解決方法を考える。
【事前学習】
粉飾決算や食品の虚偽表示は,何が問題なのか考えてくること。2時間
【事後学習】ブランドで情報の非対称性は解決できるか考える。2時間
第12回市場の失敗6
社会保険が直面する逆選択とモラルハザードについて,経済学的に理解し,解決方法を考える。
【事前学習】
政府が不幸な人を救済する場合,何が起こるか考えてくること。2時間
【事後学習】福祉がモラルハザードを引き起こさない方法を考える。2時間
第13回公務員制度
公務員を効率よく働かせる方法はあるのか,弊害を少なくしつつ能力を発揮させる方法を考える。
【事前学習】
公務員制度の弊害とされるものを考え,その対策を考えてくること。2時間
【事後学習】公務員から自分の専門の合理化策を引き出す手法を考える。2時間
第14回時事問題新聞等で取り上げられている経済政策を材料に、市場の失敗に対する経済政策の具体例を検討する。
【事前学習】
新聞を読み市場の失敗に対する経済政策を探す。2時間
【事後学習】講義で取り上げた事例について他の解決方法を考える。2時間
第15回政策の必要性
市場の失敗に対する経済政策であっても、大きなコストや新たな歪みを生じさせる場合、政策の選択はどうなるか、検討する。
【事前学習】
これまでのノートを復習してくる。2時間
【事後学習】次善の策としての政策の具体例を考える 2時間
第16回所得格差と再分配1  所得格差はなぜ発生し、どういう場合に拡大し,どういう場合に縮小するのかを理解する。
【事前学習】
「格差拡大」,「二極化」という言葉を使っている新聞,テレビ,政治家の意見を調べ,所得格差拡大の理由として挙げられている要因をリストしてくること。2時間
【事後学習】見せかけの格差拡大の事例を考える 2時間
第17回所得格差と再分配2所得再分配の方法として,どのような政策が採られているか,またそれらの政策の問題点について学ぶ。
【事前学習】
所得格差を縮小する「いい方法」を考えてくること。2時間
【事後学習】格差縮小のための政策でモラルハザードが生じにくいものを考える。2時間
第18回成長戦略1
経済成長論の要点と,生産性改善の必要性について学ぶ。
【事前学習】
人たちが豊かになるには何が必要か,考えてくること。2時間
【事後学習】生産性を上げる方法を考える。2時間
第19回成長戦略2
産業政策,科学技術政策,知的財産政策といった経済成長のための政策の意味と有用性の有無について理解する。
【事前学習】
経済成長のために効果的な政策を考えてくること。2時間
【事後学習】成長を妨げている政策の例を考える。2時間
第20回マクロ安定化政策1
失業のコストと,総需要管理政策について理解する。
【事前学習】
マクロⅠの45度線分析について復習してくること。2時間
【事後学習】ISLM曲線のシフトを復習する。2時間
第21回マクロ安定化政策2金融緩和はなぜ必要で,どのように実施されるのか,実例とともに理解する。
【事前学習】
マクロⅠの貨幣供給について復習しておくこと。2時間
【事後学習】貨幣供給が増え続けるとどうなるか考える。2時間
第22回マクロ安定化政策3
IS-LM分析と財政金融政策について,過去の代表的な政策の実例とともに理解する。
【事前学習】
過去のマクロ政策について,実例をひとつ調べてくること。2時間
【事後学習】インフレの時代のマクロ政策を調べる。2時間
第23回マクロ安定化政策4為替レートと経常収支について,国際マクロモデルの観点から理解する。
【事前学習】
マクロⅡのマンデルフレミングモデルを復習してくること。2時間
【事後学習】為替下落が歓迎されることが多い理由を考える。2時間
第24回マクロ安定化政策5
短期と長期のフィリップスカーブを理解し,インフレで失業が買えるか,という問題を理解する。
【事前学習】
マクロⅡのフィリップスカーブとそのシフトを復習してくること。2時間
【事後学習】日本でインフレが起きない理由を考える。2時間
第25回マクロ安定化政策6
デフレがなぜインフレよりも危険なのかを理解し,デフレ脱却の方法について考える。
【事前学習】
「デフレ脱却」というキーワードでどのような政策が主張されているか,調べてくること。2時間
【事後学習】2時間
第26回マクロ安定化政策7
現在主張されている財政政策の非ケインジアン効果、金融政策の非伝統的緩和のメカニズムを理解する。
【事前学習】
デフレが深刻な現在、なぜアベノミクスは財政政策でなく金融政策に重点を置いてきたのか、調べてくること。2時間
【事後学習】財政政策の効果を考える。2時間
第27回政策評価経済政策の評価の方法について,典型的な間違いを通じて,正しい評価の枠組みと方法を学ぶ。
【事前学習】
政府の活動を採点する方法を考えてくること。2時間
【事後学習】政府が政策評価に前向きでない理由を考える。2時間
第28回今日の経済政策トピック講義の期間に問題となった具体的経済政策について、理論的な説明を試みる。
【事前学習】
ニュースで取り上げられている主要な経済政策を調べ、これまで学んだ理論で説明できるか考えてくること。2時間
【事後学習】講義でとりあげた政策以外の具体例を考える。2時間
第29回経済政策の衝突
経済政策の目的はいくつかあるが、ある目的のための政策が他の目的にとっては問題を悪化させがちであることを学ぶ。
【事前学習】
これまで取り上げた経済政策のうち、成長を阻害する効果をもつものがないか考えてくること。2時間
【事後学習】複数の政策が逆効果となっている例を考える。2時間
第30回世論と経済政策
全体のまとめ
適切な経済政策の選択を妨げる世論や民主主義について、検討する。
【事前学習】
経済政策をめぐる議論を新聞などで読んでくる。2時間
【事後学習】民主主義によらない経済政策決定の方法を考える。2時間

全体のまとめを行う。
授業形式 講義形式が中心であるが,学生からの発言も求めつつ進行する。 
評価方法
定期試験 レポート 小テスト 授業への
参画度
その他 合計
90% 0% 0% 10% 0% 100%
評価の特記事項 筆記試験の配点は90%とし,講義での発言を10%程度カウントする。
テキスト 新聞,雑誌を読み,個別の経済政策について問題意識を持って考えてみること。
参考文献 参考書として,
岩田規久男他 『ゼミナール経済政策入門』 日本経済新聞社。
必修科目のミクロ経済学、マクロ経済学の教科書を復習に用いる。
オフィスアワー(授業相談) 火曜3限,8号館研究室(事前にアポイントをとること)。
事前学習の内容など,学生へのメッセージ 政府部門の活動は,金額としての規模においても,法令等の規制やルールメイキングにおいても,国の経済において大きな位置を占めている。この講義では,経済政策の必要性を,ミクロ経済学、マクロ経済学の観点から整理し,検討することによって,政策の「べき論」が理解できる能力を修得することを目指す。