講義名 セクシュアリティ論　≪◇学部≫
講義開講時期 後期
曜日･時限 火５
単位数 2

担当教員
氏名
黒岩　裕市

学習目標(到達目標) 「セクシュアリティ」（「性現象」などと説明される『広辞苑』）について考える際に重要な点は，私たちはしばしば「セクシュアリティ」には「正しい」「自然な」ものと，「おかしい」「奇妙な」ものがあると考えがちだということである。しかし，そうした価値判断は絶対的なものではなく，社会や文化に応じて大きく異なっている。なぜある「セクシュアリティ」が「正しい」ものとして規範化され，ある「セクシュアリティ」がそうではないものとして周縁化されるのだろうか。授業ではこの問いについて考えられるようになることを目標とする（一つの答えを早急に出すことを目標とはしない）。
対応DP及びCP：1, 2, 8
授業概要(教育目的) 本講義では，いくつかの小説を題材に「セクシュアリティ」をめぐる規範を根源的に問いなおすことを試みる。取り上げる作品は松浦理英子の『ナチュラル・ウーマン』，村田沙耶香の『ハコブネ』『殺人出産』『トリプル』『清潔な結婚』である。これらの作品では「男と女の真似事」ではない友愛／性愛の探求や「性別を脱ぐ」という発想，「10人産んだら一人殺してもいい」というシステムや「三人で付き合うという恋人の在り方」や「性別のない結婚」という設定を通して，身体，家族，性愛における「普通」が再考されることになる。個々の小説を丁寧に読み解くことで「セクシュアリティ」の諸問題を多角的に検討する。
授業計画表
 
回項目内容
第1回ガイダンス授業の流れを大まかに説明する。

【事前学習】２時間
シラバスを読んでおくこと。第３回以降取り上げる作品を読み進めておくこと。
【事後学習】２時間
ガイダンスの内容を復習すること。
第2回「セクシュアリティ」とはどのように論じられてきたのか／論じられているのか？「セクシュアリティ論」に必要な用語や議論について概説する。

【事前学習】２時間
第３回以降取り上げる作品を読み進めておくこと。
【事後学習】２時間
授業で取り上げたキーワードについて復習すること。
第3回『ナチュラル・ウーマン』（1987年）を読む①『ナチュラル・ウーマン』の「いちばん長い午後」を対象に，規範に絡めとられない友愛／性愛の可能性について考察する。

【事前学習】２時間
『ナチュラル・ウーマン』の「いちばん長い午後」を読んでおくこと。
【事後学習】２時間
『ナチュラル・ウーマン』の登場人物の特徴や関係性を整理すること。
第4回『ナチュラル・ウーマン』を読む②『ナチュラル・ウーマン』の「微熱休暇」を対象に，引き続き，規範に絡めとられない友愛／性愛の可能性について考察する。

【事前学習】２時間
『ナチュラル・ウーマン』の「微熱休暇」を読んでおくこと。
【事後学習】２時間
「いちばん長い午後」と「微熱休暇」を読みなおし，そこで展開される友愛／性愛のあり方を再確認すること。
第5回『ナチュラル・ウーマン』を読む③『ナチュラル・ウーマン』の「ナチュラル・ウーマン」の前半を対象に，性器に還元されない性愛の可能性について考察する。

【事前学習】２時間
『ナチュラル・ウーマン』の「ナチュラル・ウーマン」の前半を読んでおくこと。
【事後学習】２時間
性器中心主義的な性愛観の何が問題なのかをまとめること。
第6回『ナチュラル・ウーマン』を読む④『ナチュラル・ウーマン』の「ナチュラル・ウーマン」の後半を対象に，引き続き，性器に還元されない性愛の可能性について考察する。

【事前学習】２時間
『ナチュラル・ウーマン』の「ナチュラル・ウーマン」の後半を読んでおくこと。
【事後学習】２時間
『ナチュラル・ウーマン』全体を振り返り，そこで展開される友愛や性愛のあり方を再確認すること。
第7回『ハコブネ』（2011年）を読む①『ハコブネ』の「里帆・１」「知佳子・１」を対象に，性自認と性的指向をめぐる問題について考察する。

【事前学習】２時間
『ハコブネ』の「里帆・１」「知佳子・１」を読んでおくこと。
【事後学習】２時間
『ハコブネ』の登場人物の特徴や関係性を整理すること。
第8回『ハコブネ』を読む②『ハコブネ』の「里帆・２」「知佳子・２」を対象に，引き続き，性自認と性的指向をめぐる問題について考察する。

【事前学習】２時間
『ハコブネ』の「里帆・２」「知佳子・２」を読んでおくこと。
【事後学習】２時間
性自認と性的指向をめぐる問題について復習すること。
第9回『ハコブネ』を読む③『ハコブネ』の「里帆・３」「知佳子・３」を対象に，性愛と関連づけつつ，人間以外のものになるという可能性とその限界について考察する。

【事前学習】２時間
『ハコブネ』の「里帆・３」「知佳子・３」を読んでおくこと。
【事後学習】２時間
『ハコブネ』を読み返し，特にその結末の展開に対して，自分なりの解釈を試みること。
第10回『殺人出産』（2014年）を読む①『殺人出産』の前半を対象に，出産や家族をめぐる規範の問題性について考察する。

【事前学習】２時間
『殺人出産』の前半を読んでおくこと。
【事後学習】２時間
『殺人出産』の登場人物の特徴や関係性を整理すること。
第11回『殺人出産』を読む②『殺人出産』の後半を対象に，引き続き，出産や家族をめぐる規範の問題性について考察する。さらに，村田沙耶香の作品にしばしば登場する「グラデーション」という概念についても検討する。

【事前学習】２時間
『殺人出産』の後半を読んでおくこと。
【事後学習】２時間
出産や家族をめぐる規範の問題について復習すること。
第12回『トリプル』（2014年）を読む『トリプル』を対象に，「２」と「３」という数字に着目しつつ，「ホモソーシャル」をめぐる問題について考察する。

【事前学習】２時間
『トリプル』を読んでおくこと。
【事後学習】２時間
「ホモソーシャル」の問題について復習すること。
第13回『清潔な結婚』（2014年）を読む「清潔な結婚」という設定を通じて，「ロマンチック・ラブ・イデオロギー」の問題性について考察する。

【事前学習】２時間
『清潔な結婚』を読んでおくこと。
【事後学習】２時間
「ロマンチック・ラブ・イデオロギー」の問題について復習すること。
第14回『コンビニ人間』（2016年）以降の村田沙耶香の作品をたどる『コンビニ人間』とそれ以降の村田沙耶香の作品をたどりつつ，ジェンダーやセクシュアリティのさらなる探求について考える。

【事前学習】２時間
これまで授業で取り上げた村田沙耶香の作品のポイントを振り返っておくこと。レジュメを確認すること。
【事後学習】２時間
授業の論点を復習し，『コンビニ人間』以降の論点を整理すること。
第15回確認試験と解説試験を行ない（60分），その解答例を解説する（30分）。

【事前学習】２時間
これまでのレジュメを見なおし，各自での論点を整理しておくこと。
【事後学習】２時間
授業での議論を踏まえ，セクシュアリティについて学ぶことの意義について改めて考えること。
授業形式 基本的には講義形式で進める。
毎回のコメントのフィードバックは次の回の授業で行なう。
文学作品を通してセクシュアリティについて考えるという授業であるため，かなり多くの作品を読んでもらうことになる。
テキストは各自で用意し，授業時間には教室に持参すること。

授業で使用するレジュメは前日にEcoLinkに掲載する。受講生が各自印刷して持参すること。
評価方法
定期試験 レポート 小テスト 授業への
参画度 		その他 合計
50% 0% 0% 50% 0% 100%
評価の特記事項 「授業への参画度」とは毎回の授業の最後に書いてもらうコメントを指す。出した回数ではなく内容で判断する。
テキスト 松浦理英子『ナチュラル・ウーマン』河出文庫，2007年，682円
村田沙耶香『ハコブネ』集英社文庫，2016年，528円
村田沙耶香『殺人出産』講談社文庫，2016年，660円
参考文献 授業中に紹介する。
オフィスアワー(授業相談) 授業終了後の20分。事前にメールでアポイントメントを取ること（メールアドレスは授業中に伝える）。
事前学習の内容など，学生へのメッセージ 授業中の私語は厳禁。私語をしている受講生には教室から退出してもらい，単位は出さない。私語がひどい場合，履修者確定後，座席指定にする。

この授業では小説を読み，セクシュアリティの問題を考える。したがって，授業には参加しても小説を読んでいない学生には単位取得は困難である。

後期の授業は「授業への参画度」のウエイトが大きい。この点を念頭に置いて履修すること。

この授業で取り上げる小説には性的な表現が頻出する。履修する場合にはこの点にも注意すること。ただし，「性的」とは何か，ということを問いなおす小説でもある。