講義名 社会政策論 ≪◇学部≫
講義開講時期 通年
曜日・時限 月2
単位数 4

担当教員
氏名
今井 拓

学習目標(到達目標) 社会政策論は、労働問題や生活問題(社会問題)の原因を究明し、解決の為に政策や制度を検討し、提案する学問です。この講義では以下を目標にします。1.ブラック企業や年金問題などの事例を通じて、日本の社会問題の特徴を理解できる。2.社会問題の背景にある資本制社会の特質について理解できる。3.各国に独特の社会問題を生じさせる資本制社会の多様性について理解できる。4.日本の資本制社会(企業主義)の課題や問題点を理解し、改革の方向や方法について考察できる。5.グローバル化やサービス化の下で生じている新たな問題について理解し、社会政策の新たな課題について考察できる。DP・CPへの対応1.2.3.4.5.8.
授業概要(教育目的) 本講義では、社会問題が生じる背景にある資本制社会の基本的なしくみを説明するとともに、直接の原因である社会政策や制度の日本に独特なあり方について深く論じていきます。日本に特徴的な社会問題を発生させているのは企業主義の福祉資本主義の在り方であり、それを支えているのは社会政策や社会保障の諸制度なのです。さらに、各国の社会政策や社会保障制度を作り出してきた社会運動(宗教運動、労働運動、市民運動)の歴史的経験や教訓を探り、日本の社会政策や制度の改革へ向けた課題について考察します。また、グローバルな視野で多様な生活保障システムが形成されていることを説明し、現代社会の理解を深めていきます。
授業計画表
 
項目内容
第1回本講の立場と社会政策論の課題【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。経済学の4つの学派(ミクロ経済学、マクロ経済学、マルクス経済学、制度学派)の課題、方法について説明し、本講の方法、課題、内容について説明する。【事後学習】2.5時間。レジュメ・資料、ノートを参考に講義内容を振り返り、この講義を通じて何を学んでいきたいか、まとめること。
第2回ブラック企業とは?【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。ブラック企業の3つの類型について、事例を紹介しながら説明します。何がブラック企業を生み出すのか、考えていきます。【事後学習】2.5時間。レジュメ、ノートを参考に講義内容を整理し、何故、ブラック企業が現れるのか、まとめること。参考文献も参照すること。
第3回資本制社会の理論的説明 Ⅰ 商品の性質と労働力の商品化による社会の変化【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。ブラック企業は何故生まれるのか、その背景を、資本制社会のしくみから説明します。資本制社会におけるモノやサービスは商品として市場で売買されます。商品の性質を理解し、それを踏まえて労働力商品の性質を分析することで資本制社会の基本的な特徴を理解することができます。【事後学習】2.5時間。レジュメ、ノートを参考に講義内容を整理し、資本制社会において労働者がどのような状態に置かれることになるか、考察し、まとめること。
第4回資本制社会の理論的説明 Ⅱ 利潤の形成と利潤を増大させる5つの方法(労働力商品の購入と利用を通じて)

【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。企業の儲け(利潤)は、企業が労働者を雇い(労働力の商品化)、その労働者に商品を生産させ、販売することにより、実現します。労働力商品の購入と利用を通じて、利潤を増やす方法は、5つあります。【事後学習】2.5時間。レジュメ、ノートを参考に講義内容を整理し、資本制社会でブラック企業が発生するのは何故か、まとめること。
第5回資本制社会の理論的説明 Ⅲ 利潤率低下の法則
【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。資本制社会は、生産力が発展すればするほど利潤率が低下するという矛盾を抱えています。この矛盾について理論的に説明します。利潤率の低下は、ふたつの経路により発生します。第1は、過剰生産であり、第2は、標準的利潤率の低下です。第1の原因による不況・恐慌から経済を回復させるために、ケインズ主義的福祉国家が形成されました。【事後学習】2.5時間。レジュメ、ノートを参考に講義内容を整理し、利潤率の低下の原因と結果について、考察し、まとめること。
第6回福祉資本主義の4つの世界――自由主義、保守主義、社会民主主義、企業主義

【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。ブラック企業は、資本制社会のしくみを背景として生まれますが、資本制社会に共通の現象ではありません。ブッラク企業は、福祉資本主義の特定の類型から発生します。社会政策の目的の違い、制度の特徴から福祉資本主義の4つの類型について説明します。【事後学習】2.5時間。レジュメ、ノートを参考に講義内容を整理し、ブラック企業が発生しやすいのは、4つの類型のどれでしょうか?論理的に説明しなさい。
第7回まとめと小テスト
【事前学習】2.5時間。小テストの例題について、しっかり論述できるよう整理しておくこと。

【事後学習】0.5時間。小テストで出題されなかった例題に答えなさい。
第8回自由主義の福祉資本主義の成立(米国の現代社会化)
【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。米国において、自由主義の福祉資本主義が全国的に確立されたのは、1950~60年代の市民権運動により、米国南部の社会体制が変革された結果です。変革以前の米国南部の社会の状況とこの変革を実現した市民権運動について紹介し、福祉資本主義を形成した社会的力について考えます。【事後学習】2.5時間。レジュメ、ノートを参考に講義内容を整理し、自由主義の世界が形成された原因についてまとめること。
第9回保守主義の福祉資本主義の世界:ドイツの介護保障制度
を事例に
【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。ドイツにおける介護保険制度の導入を事例に、保守主義の福祉資本主義の世界について説明します。また、ドイツの介護保障制度と比較して、日本の介護保険制度の特徴を説明します。【事後学習】2.5時間。なぜ、ドイツの制度を参考にしたはずの日本の介護保険制度が全く異なる制度になったのでしょうか?第6回の内容を振り返り、考察し、まとめなること。
第10回社会民主主義の福祉資本主義の到達点【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。スウェーデン型の福祉資本主義について説明し、資本制社会の特徴を修正していく社会政策の可能性について考えます。【事後学習】2.5時間。スウェーデン型の福祉国家の可能性と限界について、考察し、まとめること。
第11回企業主義の福祉資本主義をどう改革するか 労働組合運動【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。労働組合には3つの機能があります。第1は、労働市場の規制者としての機能、第2は、政治的動員者としての機能、第3は、市民社会の形成者としての機能です。欧米の労働組合運動を事例に、これら3つの機能に基づいて労働組合運動について説明し、日本の労働組合運動の特徴について考えます。【事後学習】2.5時間。日本の労働組合運動の問題点は何であり、どう改革したらよいのか、考察し、まとめること。
第12回日本の労働組合運動の改革へむけた課題【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。企業主義の改革の為には労働組合運動の改革が必要です。日本の労働運動の特徴と問題点、改革の課題を説明します。【事後学習】2.5時間。日本の労働組合運動の問題点は何であり、どう改革したらよいのか、考察しなさい。
第13回企業主義の福祉資本主義をどう改革するか 労働組合運動によるブラック企業克服事例【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。ブラック大学早稲田のホワイト化:首都圏大学非常勤講師組合の活動事例【事後学習】2.5時間。この運動から学ぶべきことは何でしょうか、論述しなさい。
第14回理解度の確認これまでの要点のまとめ
第15回まとめ【事前学習】3時間。前半の授業のテーマについて自分なりに整理し、論述の準備をしておくこと。
課題についての論述をまとめ、提出します。
第16回労働時間制度【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。ブラック企業を克服するためには、現行の労働時間制度の問題点を改善しなければなりません。現状の制度の特徴と問題点、改革の課題を説明します。【事後学習】2.5時間。日本の労働時間制度の問題点は何でしょか?長時間労働をなくすにはどうしたらよいか、また関連してどのような政策を行う必要があるか、まとめること。
第17回最低賃金制度【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。ブラック企業を克服するためには、現行の最低賃金制度の問題点を改善しなければなりません。本来実現されるべき最低賃金の水準を示し、現状の制度の特徴と問題点を明らかにします。そして改革へ向けた課題を提示します。【事後学習】2.5時間。最低賃金の引き上げを行う場合、関連してどのような政策を行う必要があるか、説明しなさい。
第18回年金問題と社会政策 Ⅰ 諸外国の年金制度と日本の年金制度【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。福祉資本主義の諸類型毎に年金制度がどのようになっているか、説明します。日本の年金制度は、国民年金と厚生年金に大きく分かれ、給付水準に大きな格差があります。企業主義の福祉資本主義の制度の典型的な問題を示しています。【事後学習】2.5時間。日本の年金制度の問題点は何か、考察しなさい。
第19回年金問題と社会政策 Ⅲ 高齢化問題と年金制度【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。少子高齢化の中で年金制度の持続可能性が問題となっています。経済成長や生産性の上昇などいくつかの問題を取り上げ、考えていきます。【事後学習】2.5時間。年金制度の持続の為に必要なことは何か、考察しなさい。
第20回貧困問題と社会政策 Ⅱ 生活保護制度【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。日本の生活保護制度の特徴と問題点、課題について説明します。【事後学習】2.5時間。生活保護バッシングは何故行われるのでしょうか?企業主義の福祉資本主義の特徴に照らして考察しなさい。
第21回現代資本制社会の変化を分析するための理論:サービス商品と社会サービスの性質、脱工業化社会のふたつの側面 Ⅰ ――サービス労働論争——【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。現代の資本制社会の新しい貧困について検討していく為には、経済のサービス化についての経済学的分析が必要です。サービス労働をめぐる経済学上の論争を紹介します。【事後学習】2.5時間。サービス労働価値非形成説と形成説のそれぞれの正しいと考えられる点を挙げ、あなたの考えをまとめて下さい。
第22回現代の資本制社会の変化を分析するための理論:サービス商品と社会サービスの性質、脱工業化社会のふたつの側面 Ⅱ ――サービス商品の価値論的特徴——

【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。サービス商品についての経済学的説明を紹介します。【事後学習】2.5時間。今井論文「サービス商品の価値論的特徴について」を読み、コメントしなさい。
第23回介護問題と社会政策 Ⅰ 米国ナーシングホームの悲劇【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。米国では施設介護を営利企業が担っています。そこでは、ナーシングホームの悲劇といわれる事態が生じています。介護を通じた営利活動の問題点について考えていきます。【事後学習】2.5時間。なぜ、悲劇がおこってしまうのでしょうか?考えてください。
第24回脱工業化社会と社会投資福祉国家論:北欧型の政府の役割と日本型・南欧型との比較【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。資本制社会の多様性を明らかにしてきた新制度学派の研究を紹介し、日本の資本制の特徴についてさらに考察します。【事後学習】2.5時間。日本型・南欧型の資本制社会の特徴を説明し、改革の課題について論じなさい。
第25回保守主義の福祉資本主義の限界とドイツ型資本主義の変革【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。脱工業化による資本主制社会の変容は、とりわけ、階層化された福祉資本主義(保守主義及び企業主義)に改革を迫っています。特に、ドイツをはじめとする保守主義の福祉資本主義において、大きな変革が展開されています。その過程を紹介し、企業主義の改革について考察します。【事後学習】2.5時間。保守主義の福祉資本主義の改革から学ぶべきことは何でしょうか、考察しなさい。
第26回自由主義の福祉資本主義の課題:オバマ改革とトランプ革命?【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。社会投資福祉国家の充実は、自由主義の福祉資本主義にとって重要な課題です。しかし、政府の役割の拡大は、本来の保守主義や自由主義とは相いれず、自由主義の世界は、政治的に大きく分裂が生じています。民主党と共和党の対照的な動向がそれを現わしています。【事後学習】2.5時間。近年の米国における民主党と自由党の対立について、グローバルな視点からまた、社会政策的な観点から論じなさい。
第27回新興国・発展途上国の3つの世界:生活保障システムの形成と崩壊【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。新興国・発展途上国の生活保障システムとして、少なくともインフォーマル・セキュリティ・レジーム(南米)、プロダクティビスト・レジーム(東アジア)、インセキュリティ・レジーム(アフリカ)の3つの世界があります。これらの世界について概説します。【事後学習】2.5時間。先進国と比較して、新興国・発展途上国の生活保障システムにはどのような特徴があるか、考察し、社会政策の課題について、まとめること。
第28回アフリカのインセキュリティ・レジーム【事前学習】0.5時間。レジュメ・資料を読み、専門用語について確認し、疑問点等を明確にすること。アフリカのインセキュリティ・レジームについて解説する。アフリカ諸国では、国家機構の私物化と内戦、農民収奪、都市化とインフォーンマル経済の拡大の中で、生活保障体制の崩壊が生じています。これをインセキュリティ・レジームと言います。【事後学習】2.5時間。アフリカのインセキュリティ・レジームの特徴と社会政策の課題について考察し、まとめること。
第29回理解度の確認16回以降のまとめ
第30回まとめ確認試験と解説を行う
授業形式 講義形式でおこないますが、受講生との双方向のやり取りを重視します。リアクションペーパーによる質問と翌週冒頭での応答を毎回行います。
評価方法
定期試験 レポート 小テスト 授業への
参画度
その他 合計
60% 15% 10% 0% 15% 100%
評価の特記事項 その他15点は、前期最後の講義で提出する課題についての論述の評価点です。夏休みの課題レポートを課します。
テキスト レジュメ・資料。T.Fitzpatorick,2011,WelfareTheory,Palgrave.
参考文献 R.Lister,2011,Understanding Theories and Consepts in Social policy,Policy Press,Morel et al,2012,ed.,Towards a Social Investment Welfare State?,Palgrave.
オフィスアワー(授業相談) 本授業終了後、本館2階講師室で20分間は対応しています。授業内で配布する指定アドレスに質問内容を明記し、連絡してください。オフィスアワーで対応するものには、その旨返信しますので、本館2階講師室に来てください。
事前学習の内容など,学生へのメッセージ 石畑良太郎・牧野富夫編著『よくわかる社会政策:雇用と社会保障』第2版の関連個所、配布資料、参考文献などの指定した箇所を事前に検討し、疑問・質問、自分の意見等を吟味しておくこと。日々新聞等を読み、社会政策に関わる問題意識を持って講義に臨むようにしてください。