回 | 項目 | 内容 |
第1回 | はじめに | 使用するテキストの紹介,これからの授業の進め方や担当者(栖原)の問題意識の説明,受講者の関心と問題意識の聞き取りなどを行います。 |
第2回 | 「はじめに」(1) | テキスト「はじめに」の部分を読むことによって,本書の概要をつかみます。本書は4部構成になっていますが,第I部「所得と資本」および第II部「資本/所得比率の動学」は,本書の基本的分析用具である所得,資本,資本/所得比率,所得分配といった諸概念と,世界各地域におけるそれらの長期的な推移を概観します。 |
第3回 | 「はじめに」(2) | 引き続きテキスト「はじめに」を読み,本書第III部「格差の構造」および第IV部「21世紀の資本規制」の内容の概略を理解します。つまりここでは,資本主義において所得格差が生じる理由を理解し,行き過ぎた格差の是正策を考えます。こうして,まず本書の議論の骨格をつかみます。 |
第4回 | 第1章 所得と産出(1) | 今回から,本格的な議論に入ります。まず,分配の問題を考えるにあたって必要となる経済学の基本的概念を確認します。具体的には,国民所得,国内生産,外国からの純収入,資本,資本/所得比率,資本収益率といった諸概念です。またピケティが資本主義の第一基本法則と呼ぶ次の関係式,
α=r×β
を検討します。ここで α は所得分配率,r は資本収益率,β は資本/所得比率です。さらに,上述の諸概念の具体的な計測,すなわち国民経済計算の歴史を簡単に学びます。 |
第5回 | 第1章 所得と産出(2) | 第4回で見た諸概念を基礎に,歴史統計と呼ばれる分野の知見を使いながら,世界各国・各地域の生産や所得の分布の歴史的推移を概観します。世界における所得の格差についていえば,1700年ころから現在に至る3世紀の歴史は,産業革命によって非常に高くなった欧米先進諸国の一人当たり所得に対して,非欧米後進諸国の一人当たり所得が次第に追いついていく(キャッチアップする)過程を示しています。とはいえ,現在における先進地域の一人当たり所得は,後進地域のそれの10倍から20倍はあるようです。 |
第6回 | 第2章 経済成長(1) | 生産の成長は,人口の増加と一人当たり生産の増加に分けて考えることが可能です。過去3世紀にわたる世界全体の成長率は,人口と一人当たり生産の双方について,高い山をもつ釣り鐘型(逆U字型)の曲線として描くことができます。つまり世界の生産増加は18世紀から19世紀にかけてだんだんとペースアップし,20世紀に成長率のピークを迎えました。さらに今後21世紀には,生産成長率は再び過去の低い水準に戻っていくと予想することができます。 |
第7回 | 第2章 経済成長(2) | 生産の増加を考えるときには,インフレーション(物価上昇)の問題を考えることも必要です。インフレに慣れたわれわれには驚くべきことかもしれませんが,インフレというのはおおむね20世紀の現象でした。長期的な物価の時系列をもつあらゆる国で,第一次世界大戦までの2世紀について,一時的な変動はあったとしても,長い目で見ればインフレはゼロかそれに近かったのです。この点からみると,20世紀になって,明らかに世界は大きく変わったということができるでしょう。 |
第8回 | 第3章 資本の変化 | ピケティは,資本という言葉を資産と同じ意味に使っており,したがって労働所得以外の所得はすべて資本所得と考えています。つまり資本とは,土地,建物,機械,株や債券などの金融資産,家畜,天然資源,それに特許などの全体を意味します。彼はまず,こうした資本に関する歴史的なデータが豊富な英国およびフランスについて,資本と所得と比率,資本の構成などを過去3世紀にわたって調査し,その歴史的推移を考察しています。 |
第9回 | 第4章 古いヨーロッパから新世界へ | ここでは,前章で見た資本に関する歴史的推移について,分析範囲を英国とフランスからさらに広げ,他のタイプの資本主義における資本の特性について調査します。すなわち,分析対象をまずドイツなどの他のヨーロッパに移し,さらには米国,カナダなどの新世界に拡大します。ピケティは,とりわけ米国において奴隷制が果たした役割に注意を払っています。それは彼が,現代における米国の格差に過去の奴隷制が関係していると判断しているからです。 |
第10回 | 第5章 長期的に見た資本/所得比率 | 資本/所得比率を長期的に見ると,ヨーロッパ諸国のそれは大体において米国よりも高いこと,また一般的な傾向として,資本ストックの国民所得に対する比率は,20世紀半ばをボトムとしてU字型のカーブを描いていることがわかります。この傾向を21世紀に外挿すると,資本/所得比率の大きさは19世紀の水準を回復あるいはそれを超過することが予想されます。なおここでは,本書で資本主義の第二基本法則と呼ばれる,資本/所得比率の動学的法則,
β=s/g
が示されています。ここで,β:資本/所得比率,s:貯蓄率,g:成長率,を意味します。
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第11回 | 第6章 21世紀における資本と労働の分配(1) | 前に紹介した資本主義の第一基本法則は,資本分配率が資本収益率と資本/所得比率の積として決まることを述べています。歴史的な統計が豊富な英国とフランスの例を見ると,国民所得の資本分配率(資本シェア)は,18世紀後半から19世紀を通じて35-40%,20世紀半ばに20-25%に下がりましたが,20世紀後半から21世紀にかけては25-30%へと再び上昇しています。これは,第10回講義で述べたU字型の資本/所得比率変動と対応し,また資本収益率(逆U字型)とは逆の動きを示しているようです。 |
第12回 | 第6章 21世紀における資本と労働の分配(2) | 上に述べた歴史統計が示す所得分配率の動きが,マルクスのいう労働者の窮乏化(労働分配率の低下)という予想に反していることは明らかですが,かといって主流派(新古典派)が好むコブ=ダグラス型生産関数(資本と労働の代替弾力性が1)が示唆する所得分配率一定の主張にも反しているようです。少なくとも長期的には,資本/所得比率βの増加は,国民所得の資本シェアαを微増させたようであり,したがって資本と労働の代替弾力性は1より大きかったと想像できます。経験的にみて,将来,資本/所得比率が上昇するとしても,資本利益率はそれほど下がらず,その結果として資本分配率の上昇,つまりは格差の拡大が予想されるのです。 |
第13回 | 第7章 格差と集中 | 本章においてピケティは,20世紀におけるヨーロッパと米国の所得と富の格差を,課税前の一次分配の具体的な数字を使って示しています(表7-1~表7-3)。その際には,資本所得や富の格差だけでなく,労働所得の格差(もちろん資本や富の格差にくらべればずっと少ないのですが)についても考慮されます。低格差の代表である1970-80年代の北欧と,高格差の代表である1910年の西欧あるいは2010年の米国との差が,実感できます。後者には,中流階級と呼べるものはほとんど存在しません。(世襲型の)中流階級は,20世紀が生み出したイノベーションというべきでしょう。 |
第14回 | 第8章 二つの世界 | 大陸ヨーロッパ,とりわけフランスでは,19世紀までの大きな所得格差が,20世前半を経て大きく縮小しました。いったい何が格差の縮小をもたらしたのでしょうか。それは,二度の世界大戦による破壊,大恐慌による破産,そしてこの時期の公共政策(家賃統制,国有化等々)という政治的・制度的な変化でした。この傾向は米国でも同様ですが,米国では特に20世紀後半になって,とりわけ1980年以降に,格差が爆発的に拡大することになります。ピケティは,このことが下層・中流階級の購買力低下と借金の増大をもたらし,2008年の金融危機の引き金となったと述べています。 |
第15回 | 前期授業の総括 | 今回の授業では,これまでの14回の授業をまとめ,富と所得の格差が生まれるメカニズムを改めて考えてみましょう。 |