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先生からのおすすめ本

東アジアを考える3冊の本

村上直樹 教授
会計学


(1)漢字がつくった東アジア
 本書によると東アジア(日本、中国、韓国・朝鮮、台湾、越南が含まれます)、単なる地理的概念ではなく、「漢字文明圏」というかたちで括ることのできる歴史的、地理的、文化的共通性を持つ地域を指します。言葉から離れられない人間の歴史を、とりわけ、言語に対する文字の関係から分類して世界史を考えなおすのが本書の目的とされています。
 ともすると誤解されがちですが、日本や朝鮮などに最初から独特の文化があったわけではありません。まず、秦(始皇帝の時代)・漢による文明化(文字によって明るみに出されること)を経て共通の基盤に立って政治的、思想的に結び合わされた後、その共通な基盤に対する角度の違い、つまり、その枠組みに溶け込むのか、それとも反発するのか、その対応の違いによって、中国、朝鮮あるいは日本など少しずつ地域的特性、つまり独自の文化が形成されていったのです。そして、東アジアを形成した共通の基盤が漢語(=漢字)に他なりません。ここで、漢語とは書き言葉主体の言語であって、漢字による全国統一がなされた当時、中国大陸の各地の民衆が使っていたさまざまな方言、話し言葉とは違います。その意味で中国自体もあらかじめ存在したわけではなく、漢語によってつくり出された地域と言えます。そして、中国から完全に独立した日本独自の文化がつくられるのは、平仮名の誕生以降です。
 現代書道の奇才にして巨匠である著者は本書を通じて以上のような東アジア形成史観を極めて説得的に展開しています。そして、こうした見方は、沖縄の米軍基地問題あるいは朝鮮半島情勢、さらにはアイヌ民族の方々との友好関係といった、現在、皆さん一人一人が直面する難題を解くためにも有効であることが本書を読むとわかります。
石川九楊著 筑摩書房 2007

(2)中国化する日本 日中「文明の衝突」一千年史
 本書の表題にいう「中国化」とは、現実の日本と中国のあいだの力関係の変化を指すのではなく、「日本社会のあり方が中国社会のあり方に似てくること」を意味しています。近年、中国史の有力な考え方によりますと、現在に至る中国社会の性格が固まるのは宋朝(960年〜1279年)ということになります。そして宋朝中国=中華文明の本質は「可能な限り固定した集団を作らず、資本や人員の流動性を最大限に高める一方で、普遍主義的な理念に則った政治の道徳化と、行政権力の一元化によって、システムの暴走をコントロールしようとする社会」というものです。
 ちょっと難しい表現ですが、その具体的な内容については本書を読んでいただくとして、重要なのは、対する日本の本質は江戸時代に確立され、それは、上述の宋朝中国の本質と真逆の性格を持っているということです。そして、本書は「中国化」と「江戸時代化」のどちらの要素が強いか、という観点から日本史はもとより中国史さらにはヨーロッバ史を理解しようという試みです。その結果、著者は現在世界全体が「中国化」を加速させているという認識に達し、その中で日本は如何にあるべきかを問うています。
 本書を読み進めるため予備として必要なのは高校レベルの日本史の知識です。大学での講義がもとになっているだけに軽妙な書きっぷりが印象的です。ぜひ本書を読んで、書かれた当時(2011年)と現在(2017年後半)とでは日中関係、世界情勢などがまた大きく変化している中で、本書の主張がより説得力を増していることを確認してみてください。
與那覇潤著 文藝春秋社 2011

(3)経済大国化の軋みとインパクト (超大国・中国のゆくえ第4巻)
 トランプ政権の誕生、ブレグジッドなど、欧米社会がますます混迷を深める中、超大国としての中国に対する関心がいやが上にも高まっています。現代中国を的確に理解するためには、その実態を多面的・総合的に捉えることが何より重要です。本書はそうした趣旨で編まれた全5巻のシリーズ『超大国・中国のゆくえ』の中の1冊で、中国経済の光と影を明らかにしています。
 現代中国経済研究の分野でさまざまなトピックスについて数々の貴重な研究成果を産み出し続けているお二人による著作ですから、中国経済の細部を知り、かつそれを総合的に理解するという趣旨に最も適していると言えるでしょう。計量経済学に基づいた精緻な実証分析が分かり易く紹介されているほか、生のデータをつぶさに検討し、そこから貴重な知見が導かれている点でも勉強になります。
 具体的な軋み(影の部分)としては、たとえば、中国経済が投資過剰状態、すなわち投資収益率の低下にも関わらず資本蓄積が進んでいる状態に陥っていることがあげられています。一方、技術発展の具体的成果として家庭用豆乳機、電動自動車、アニメ制作技術などがあり、こうした民間主体の動きがやがて中国経済の新たなインパクト(光の部分)につながるであろうと予測されています。
 2015年6月には中国の外相が「日本は中国の復活に対して、心の準備が十分できていない」といった趣旨の発言をし、そのことが日本国内でもひとしきり話題となりました。中国経済がこれまでの超高度成長から一息ついて新たな段階に向かおうとしている今日、皆さん一人一人の「心の準備」のためにも、ぜひ、本書を読まれることをお薦めします。
丸川知雄・梶谷懐著 東京大学出版会 2015

 

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